靜宜大學との協定締結が描く、やまがたAI部の未来

2026.07.29
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台湾・台中の靜宜大學とオーツー・パートナーズが包括連携協定を締結した。同日、やまがたAI部運営コンソーシアムとの協定も合わせて結ばれ、2026年6月24日は日台の新しい関係が始まった日となった。日本とアジアをつなぐAI教育の可能性を、林思伶学長と松本晋一の対談から読み解く。

利他の精神を教育のDNAに持つ大学──靜宜大學とは

靜宜大學は1956年、アメリカのカトリック修道女会によって台湾・台中市に創設された私立大学だ。約1万2000人の学生が学ぶ総合大学で、語学・国際交流に強みを持つリベラルアーツ教育で知られる。日本語学科をはじめ、日本への留学や就職を希望する学生が多く、日本との縁が深い大学でもある。

学長の林思伶氏は、台湾の教育部(文部科学省に相当)副部長を歴任したのち靜宜大學の学長に就任した、台湾の教育界を代表する人物だ。「他者のために生きる利他精神と国際化が、私たちの教育のDNA」と語るその姿勢は、大学のカリキュラムや国際連携の取り組みに色濃く反映されている。

靜宜大學が今特に力を入れているのが「国際化」「AI教育」「人類の持続可能な発展」という3つのテーマだ。このすべてにおいて、大学と企業・社会の密接な連携が不可欠だと林学長は強調する。

山形から全国へ、そして世界へ──やまがたAI部とは

やまがたAI部は、オーツー・パートナーズが山形県で立ち上げたAI活用人材育成の取り組みだ。製造業のコンサルティングで培った現場感覚を活かし、学生が実際のビジネス課題にAIを使って取り組む「実践型の学び場」として設計されている。

単なる技術研修にとどまらず、「課題を発見し、解決策を考え、アウトプットまで持っていく力」を身につけることを目指している。AI部に参加した学生が実務経験を積み、卒業後に製造業や地方企業で活躍していくという人材育成モデルを構築しつつある。

今後はこの取り組みを全国各地、そして海外へと広げていく方針だ。今回の靜宜大學との協定は、その海外展開における最初の大きな一歩となった。

対談から見えた、AIと教育の未来

締結式に合わせて行われた靜宜大學林思伶学長と松本晋一の対談から、いくつかのハイライトを紹介する。

台湾の産学連携は「形」ではなく「実質」

松本 ようこそ、日本へ。靜宜大學は多くの企業・海外組織と連携されていますが、その理念や意図を教えていただけますか?

林学長 靜宜大學が創設された当初から、「国際化」と「利他精神」は私たちの教育のDNAとして存在しています。

現代の高等教育において、企業との連携は必然的な潮流です。学生が実際の社会問題を自ら解決できる人材になるためには、大学と企業が密接に協力することが不可欠です。

特に今、靜宜大學は「国際化」「AI教育」「人類の持続可能な発展」の3つを最重要テーマと位置づけており、これらはすべて大学と企業の協力なしには実現できません。

松本 日本だと、大学と企業の連携はまだまだ少ない印象がありますね。

林学長 台湾では10数年前から、教育部の政策として産学連携が奨励されてきました。背景には企業からの「大学卒業生が実務で使えない」という声があります。

連携には4つの形があります。

1つ目は「産学研究の連携」——大学の研究成果を企業が商品化・活用するもの。

2つ目は「インターンシップ・プロジェクト参加」——大学の教員や学生が企業に赴いて実務を経験するもの。

3つ目は「企業が大学内に研究センターや育成拠点を設置する」もの。

4つ目は「企業の実務専門家が大学で教える」——実際の現場で活躍するプロが教師として授業を担当するものです。

こうした連携は台湾国内にとどまらず、海外の企業とも広げています。

松本 日本では提携すること自体が目的になってしまって、実質的な活動につながっていないケースも多い気がします。

林学長 それは可能性としてありますね。ただ本当に奨学金や人材育成が絡む連携であれば、双方が具体的な指標を設定してお互いに確認し合う関係になります。

提携のあるべき姿は、形式ではなく実質であるべきです。

越偏鄉、越科技──田舎であればあるほど、デジタルが進んでいる

松本 日本と台湾でデジタル教育のレベルにかなり差があると感じています。なぜこれだけ差があるのでしょうか?

林学長 日本のデジタル教育については詳しくありませんが、私の観察では、日本は新しい技術を受け入れるスピードが慎重です。それは日本人が社会秩序や丁寧さを重んじるからだと思います。

台湾では、企業・政府・教育現場の距離がとても近く、中小企業のオーナーが学生の親でもあるため、「こういう人材が必要だ」という声がすぐに国会議員に届き、教育部が動くスピードが非常に速いことが背景にあります。

私が教育部副部長を務めていた13〜14年前、情報教育を小中学校の必修科目にするという政策判断から実行まで1年以内に完了しました。

松本 1年以内ですか、驚異的なスピードですね。新しくカリキュラムを入れると、何か削るものがでてくるのでは。

林学長 台湾でも課題があって、新しいものを追加しても古いものが完全には削除されず、授業が増える一方になりがちです。ただ、この10数年で「生命・人文教育」と「デジタル情報教育」を柱に、全国のカリキュラムを大きく見直しました。

コーディングの義務化→アプリ開発→そして現在のAIという流れで、段階的に進化してきました。身内の子供が小学6年生のときにアプリを作って販売できるレベルになっていましたよ。

松本 それはすごい。そうなると先生の数も足りなくなりますよね。

林学長 師資(教員の育成)が最大の課題でした。

最初は全国のIT系バックグラウンドを持つ小中学校の教員を中央政府に集めて一斉研修を行い、その後それぞれの学校に戻ってもらいました。また専門家・教員・出版社が協力してすぐ教科書を作り、配布しました。さらに企業の実務専門家を「夜間教師(非常勤講師)」として学校に招く制度も整えました。

また台湾で特徴的なのは「越偏鄉、越科技(田舎であればあるほど、デジタルが進んでいる)」という現象です。

都市部には教育資源が豊富ですが、僻地・離島には若い教員が行きたがらない。だからこそ、デジタル技術を通じてその格差を補う政策が先行しました。

具体的には、①政府がデジタル機器を整備 → ②通信会社が学校の回線を整備 → ③大学生が現地に行ってiPadの使い方を教える、という3ステップで進めました。

離島の小中学生は毎日iPadを借りて家で学習できます。経済的に厳しい家庭の子供も学校から貸し出せる仕組みがあります。

また大学生が週1回、僻地の小中学生とオンラインでマンツーマン家庭教師を行うプログラムもあります。主に語学・情報・数学を1年間継続してサポートしています。今の台湾ではiPadやPCがない学校を探す方が難しいくらいです。

AIで「母語のまま」国際交流ができる時代へ

松本 学長から見て、日台の交流やAI教育を通じて、どんな未来を描いていますか?

林学長 今はまさにグローバルビレッジの時代です。やまがたAI部、AI甲子園のような活動を通じて、日台の若者が交流を始めることが第一歩だと思います。ただし技術的な交流だけでなく、異なる文化背景を持つ人と協力する力を学んでほしい。

松本 言語の壁はまだまだありますよね。

林学長 実際に台湾では「国際教育政策」のもと、国内の学校の半分以上が海外の学校とオンラインで合同授業を行っています。同じ科目を日本と台湾の先生が交互に担当し、単位互換もできる仕組みです。

最初は言語の壁がありましたが、今はAIのリアルタイム翻訳の精度が上がり、自分の母語で発表・議論ができるようになっています。

また、最近私が主催した国際学長フォーラムでは、各国の学長が自国語でプレゼンし、スクリーンに英語・相手の母語・中国語を同時表示しました。最初は断っていた学長も、「母語でいい」と伝えたら全員参加しました。

私がこうした取り組みをしているのは、学生に「AIをうまく使いこなすことの大切さ」を伝えたいからです。

松本 本当に深夜まで語れる話ですね(笑)。

林学長 そうですね(笑)、話し始めたら止まりません。

協定が生み出す、新しい学びの回路

今回締結された2つの協定(オーツー・パートナーズ×靜宜大學、やまがたAI部運営コンソーシアム×靜宜大學)は、教育・研究・文化交流の推進と、学生の人材育成・キャリア形成の相互支援を柱としている。

具体的には、靜宜大學の学生がやまがたAI部でインターンや実務プロジェクトに参加すること、日台の学生が共同でAI活用の課題解決に取り組むこと、そして留学サポートなどの連携が今後検討されていく。

台湾から見れば「AIを学びながら日本で実務経験を積む場所」、日本から見れば「多様なバックグラウンドを持つ学生と共にAI活用を深める場所」として、やまがたAI部が機能していくことが期待される。

「深夜まで語れる話」──これは始まりに過ぎない

条文に書かれた連携項目よりも、互いに語り合える関係性こそが、長く続く連携の土台だ。

やまがたAI部は山形から始まった小さな取り組みだが、台湾という窓が開いたことで、学生たちが見える景色は大きく広がった。この協定が、未来のAI人材を育てる新しい回路の起点となることを期待したい。

文・構成:オーツー・パートナーズ 広報 / 写真:的野 弘路

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