【連載・エピローグ】「戦略を更新し続ける時代へ」

2026.07.24
  • コンサルティング
  • 製造業
  • ものづくり


執筆者 伊藤 尚志 執行役員 PLACE Div.担当
慶應義塾大学経済学部卒。アクセンチュア、デロイトトーマツコンサルティングを経て、2023年6月より株式会社オーツー・パートナーズに参画。

Podcast『製造業進化論-技術とデジタルと経営と-』

オーツー・パートナーズ制作Podcast番組『製造業進化論-技術とデジタルと経営と-』にて、本コラムを執筆した伊藤尚志が『“作るだけでは儲からない時代”、製造業はどう戦うか?』をテーマにトーク。MCは当社取締役の勝見靖英が務めます。

エピローグ「戦略を更新し続ける時代へ」

本連載では、中国製造業やAIの動向を題材に、製造業を取り巻く競争環境の変化について考察してきた。

もっとも、本連載で本当に描きたかったのは、中国企業でもAIでもない。

経営環境そのものが、これまでとは異なる速度で変化し始めているという事実である。

AIは生産性を高める技術として語られることが多い。しかし、その本質は単なる効率化ではない。

企業が持つ供給能力や知識、さらにはビジネスモデルそのものを、これまでよりもはるかに短い時間で学習し、再構成できる可能性をもたらしたことである。

それは、新たな競争相手の登場を早め、異業種からの参入を容易にし、業界の境界を曖昧にする。さらには、これまで長期間維持できた競争優位の寿命をも縮めていく。

つまり、AIが変えるのは競争そのものではなく、競争環境が変化する速度のである。

この変化が続けば、企業はこれまで以上の頻度で、自らの戦略を問い直さなければならなくなるだろう。

市場は変わる。顧客は変わる。競争相手は変わる。価値の源泉も変わる。

さらには、「私たちは何者なのか」という企業の存在意義そのものが問われる。

これまでの戦略は、将来を予測し、あるべき姿を描き、その実現に向けて組織を動かす営みだった。

もちろん、その重要性はこれからも変わらない。

とはいえ、これからはもう一つの能力が求められる。

それは、一度描いた戦略を前提にするのではなく、環境変化を学びながら戦略そのものを継続的にアップデートしていく力である。それも高速に。

完成された戦略を持つことよりも、変化を捉え、問いを更新し続けられること。

その力が、これからの経営においてますます重要になるのではないだろうか。

最後に、本連載を書くにあたっての私自身の考えを記しておきたい。

本連載で取り上げた事象は、いずれも大きな変化の途上にある。

AIは日々進化している。中国企業も試行錯誤を続けている。そして、日本企業もまた、それぞれの現場で新たな挑戦を始めている。

だから、本連載で描いた未来が、そのまますぐさま現実になるとはわからない。

それでも、大きな変化が起きていることは確かである。

その変化の背後には、個別の技術や企業を超えた構造的な潮流が存在している。

私は、その構造をできるだけ俯瞰し、変化を読み解くための一つの視座を提示したいと考え、本連載を書いてきた。

経営とは、不確実な未来の中で意思決定を続ける営みである。

だから必要なのは、未来を正確に予測することではなく、変化の構造を理解し、自社が置かれている状況を考え続けることである。


AI時代において、変化を学び、問いを更新し、自らの存在意義を問い直し続ける力はこれまで以上に重要である。

その営みこそが、これからの製造業、そして企業経営に求められる最も重要な競争力なのではないだろうか。



本連載も、そのための一つの仮説にすぎない。

これから先、現実は私たちの予想を超える速度で変わっていくだろう。

だからこそ、この連載で述べた考え方も、現実から学びながら更新され続けるべきものだと考えている。

私自身も、変化を観察し、考え続け、自らの仮説をアップデートしていきたい。

そして何より、本稿をお読みいただいた皆様が、それぞれの企業や現場で直面している現実を通じて、この議論をさらに深め、ともに学び続けることができれば、著者としてこれ以上の喜びはない。

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