【連載・第3回】「中国という現実 ― AI・デジタルが加速させる製造業」

2026.06.12
  • コンサルティング
  • 製造業
  • ものづくり
執筆者 伊藤 尚志 執行役員 PLACE Div.担当
慶應義塾大学経済学部卒。アクセンチュア、デロイトトーマツコンサルティングを経て、2023年6月より株式会社オーツー・パートナーズに参画。

Podcast『製造業進化論-技術とデジタルと経営と-』

オーツー・パートナーズ制作Podcast番組『製造業進化論-技術とデジタルと経営と-』にて、本コラムを執筆した伊藤尚志が『“作るだけでは儲からない時代”、製造業はどう戦うか?』をテーマにトーク。MCは当社取締役の勝見靖英が務めます。

第3回「中国という現実 ― AI・デジタルが加速させる製造業

前回、中国が世界最大級の供給装置であることを見た。

鉄鋼、リチウムイオン電池、工作機械、ヒューマノイド——古い産業から未来産業まで、中国は広範な製造業で巨大な供給能力を持っている。

今回は、その供給能力の背後で起きているもう一つの変化を見てみたい。

近年、中国では製造業のデジタル化とAI活用が急速に進んでいる。注目したいのは技術そのものではなく、それらが製造業の課題解決にどのように使われているかである。

中国は幅広い業種で先進工場の集積地である。その象徴がLighthouse Factoryである。

Lighthouse Factoryとは、世界経済フォーラム(WEF)が認定する先進工場ネットワーク(Global Lighthouse Network)のことであり、「製造業のノーベル賞」とも呼ばれる。

この制度は、WEFが推進する4IR(Fourth Industrial Revolution:第4次産業革命)の実装事例を共有する目的で2018年に創設された。

単にAIやIoT、ロボットを導入した工場を認定する制度ではない。

評価されるのは、

  • AI
  • IoT
  • Digital Twin
  • Robotics
  • Cloud
  • Advanced Analytics

などの4IR技術を活用しながら、

  • 技術導入
  • 現場への定着
  • 全社展開
  • 経営成果
  • サステナビリティ
  • 人材育成

まで含めた変革成果である。

特に重要なのはScaleである。

多くの企業がPoC(概念実証)に留まる中、Lighthouse Factoryでは工場全体、さらにはサプライチェーン全体への展開が求められる。WEFはこれを「Pilot Purgatory(PoC地獄)」から脱した状態として評価している。

また近年はTalent(人材・組織変革)が正式な評価項目として加わった。

評価されているのは技術そのものではなく、技術を成果へ結び付ける組織能力なのである。

2026年初時点で、世界201拠点のうち約85拠点、約42%が中国に立地している。

注目すべきは数だけではない。

家電、食品、化学、鉄鋼、電池、タイヤ、光学機器など、幅広い業界で認定が進んでいることである。

つまり中国では、一部の先端産業だけでなく、製造業全体でデジタル変革が進んでいる。

同様の動きは中国国内の認定制度にも見られる。

中国工業情報化部(Ministry of Industry and Information Technology:MIIT)は、製造業のデジタル化を促進するため、スマート工場認定制度を推進している。

ここでいうスマート工場とは、生産設備や工程がデータで接続され、一定レベル以上のデジタル化を実現した工場を指す。

さらに上位区分として高度スマート工場が位置付けられており、AI活用や複数工程の統合最適化など、より高度な運用が求められる。

2025年時点で、

  • スマート工場 3万超
  • 高度スマート工場 7,000超

が認定されている。対象は31省に広がり、製造業の80%以上をカバーしている。Lighthouse認定やスマート工場認定が示しているのは、単なる技術導入ではない。

中国では、デジタル技術を現場に定着させ、実際の成果へ結び付ける取り組みが幅広い業界で進んでいる。

これが、出発点となる事実である。

AI・デジタル技術はどこで成果を生んでいるのか

では、こうした取り組みは実際にどのような成果を生んでいるのだろうか。

興味深いのは、AIやデジタル技術の活用が特定工程に限定されていないことである。

顧客・受注、設計・開発、生産、品質——

AI・デジタル技術の活用は、製造バリューチェーン全体へ広がりつつある。

例えばHaierは、多品種少量という従来であれば効率が落ちやすい領域に挑戦している。

Mettler-Toledoは、多品種・単品受注が求められる市場に対し、デジタル技術を活用することで納期短縮と高い納期遵守率を実現している。

Eatonは設計から納品までのリードタイム短縮に取り組んでいる。

Michelinは製品バリエーションを大幅に増やしながら、小ロット対応と試作期間短縮を実現している。

Mideaは高効率生産と多品種対応の両立を進めている。

CATLやZEISSは品質管理やパーソナライゼーションといった難易度の高い領域に取り組んでいる。

もちろん、製造業のトレードオフが消えたわけではない。

品質を上げればコストは上がる。多品種少量に対応すれば効率は下がる。納期を短縮すれば在庫や負荷は増える。

こうした制約は今も存在する。

しかし今回調査した事例を見る限り、中国企業が取り組んでいるのは単なる部分最適ではない。

改善対象となっているのは、

  • 多品種少量と納期
  • 開発スピード
  • 品質管理
  • 個別対応と効率

など、従来から製造業が苦労してきたボトルネックとなりがちな課題である。

言い換えれば、単に作業を効率化しているのではない。供給能力を高めにくかった領域そのものに挑戦しているのである。

この視点で見ると、今回の事例群には二つの共通点が見えてくる。

一つは、製造バリューチェーン全体の生産性向上を目指していること。もう一つは、供給能力向上の制約となっていたボトルネックの解消を目指していることである。

今回見えてきたのは、中国ではデジタル技術を活用した製造業変革が、一部企業の実験段階を超え、幅広い業界で実装されつつあることである。

Lighthouse Factoryに認定された工場群は、その象徴と言えるだろう。

重要なのは、AIを導入していることではない。

製造業が長年抱えてきたボトルネックに対し、実際の成果を伴う解決策が現れ始めていることである。

ここから先は私自身の仮説である。

製造業の供給能力というと、私たちは工場や設備、人員の規模を思い浮かべがちである。

しかし今回の調査を通じて、供給能力を規定する要因そのものが変わり始めているのではないかと感じた。

設備や人だけではない。データ、接続、そしてAI。

もしそうだとすれば、供給能力は単なる設備能力ではなく、システム能力として再定義されるのかもしれない。

次回は、この変化が世界の製造業にどのような影響を与えるのかを考えてみたい。

DXでお困りの方は、オーツー・パートナーズにご相談ください。
記事をシェア

9割以上のお客さまから
継続支援の依頼をいただいています

「自らやる」「一緒にやる」「やり方を見せる」でお客さまに伴走します。
1営業日以内に担当者よりご連絡いたしますので、お気軽にお問合せください。

まずは相談してみる