【対談連載『リーダーのアタマのナカ』第3回後編】和える代表取締役・矢島里佳

2023.12.08
  • 対談連載『リーダーのアタマのナカ』

未来の資源を先取りしない、行き過ぎた成長は目指さない。文化と経済の両輪を育む「美しい稼ぎ方」。

オーツー・パートナーズの代表取締役社長・松本晋一が日本の製造業を元気にしたいという志を持つ各界のキーマンにインタビューする対談連載『リーダーのアタマのナカ』。今回ご紹介するのは、株式会社和える代表取締役の矢島里佳さん。2023年よりオーツー・パートナーズの社外取締役として参画しています。今回は、矢島さんが考える「美しい稼ぎ方」や「足るを知る経済」などについてお話を伺いました。

プロフィール 矢島里佳 株式会社和える/代表取締役
慶應義塾大学法学部政治学科在籍中、「日本の伝統を次世代につなぎたい」という想いで、株式会社和えるを2011年に創業。幼少期から日本の伝統に触れられる環境を創出すべく、“0歳からの伝統ブランドaeru”を立ち上げ、全国の職人と共にオリジナル商品を生み出す。伝統を活かした空間プロデュース事業、教育事業、地域企業の伴走型リブランディング事業等、文化と経済を両輪で育む事業を複数展開。2023年1月より、株式会社オーツー・パートナーズ社外取締役に就任。

「足るを知る経済」の実現は、お金の道徳教育から

松本:「足るを知る」というのは、「これ以上サービスや製品を販売し続けることは、社会のために良くないな」と、自分たちで感じ取るということですね。

矢島:そうです。これ以上事業を伸ばす必要はない、というところまできたら、後は一定のお客さまに届けられればいいのです。来年も、再来年も、同じ業績だとしても、会社が成り立っているなら立派な優良企業です。従業員数や店舗数を増やして、給料を上げ続けていくことが、いい会社の証ではありません。喜んでくれる一定のお客さまができて、未来の資源を先取りすることなく、社員が心身ともに豊かな暮らしを実感できていたら、成長はそこまで。そのラインを見極めることができる経営者こそが、「いい経営者」だと思います

松本:今のお話に、痛いところを突かれた経営者は、たぶんすごく多いでしょう(笑)。私は、資本主義が、こんなふうに成長を目指し続ける構造になってしまった背景には、「資本家と経営者の分離構造」があると思っています。経営者本来の目的は、「いい商品やいいサービスを提供して、お客さまを幸せにすること」だったはずなんです。それほど儲からなくても、社員がハッピーで、それなりのお給料を出せれば十分だと。だけど、お金を増やしたい株主は現状維持を許しません。だから資本家とプレイヤーを分けていること自体が、そもそも間違いなんですよね。

矢島:私は幼少期から「お金の道徳教育」をするべきだと思っています。今でも金融リテラシー教育が注目されていますけど、どうやってお金を増やすか、といった話ばかりです。そうではなく、お金との付き合い方や、お金とはどういうものなのかを教えていく。そして今、経済にどんな問題が起きているのかを知ってもらう。そうすれば、大人になってお金を手にしたときも、ただ増やすことを目的にするような使い方はしないでしょう。善き心で、お金と賢く付き合うための教育をすることが、これからの資本家の思想哲学を変えるための一つの希望になると思っています。

松本:そういうお金に関する道徳教育って、日本ではほとんどしてないですよね。

矢島:はい。先進国の中でも日本はそういう意識がかなり低いと私は感じています。日本はまだ、お金を稼ぐこと自体に「汚い」とか「卑しい」というイメージがあるようにも感じますが、美しく稼げば良いのです。私は、お金のために生きるような大人=経済の奴隷にはなりたくないですが、「経済とは友達でいたい」という感覚です

美しく稼ぎ、生き残るための社会実験

矢島「美しく稼ぐ」ことには興味があるけど、「ただ稼ぐ」ことには一切興味がないというお話をしました。でも、なかなかむずかしいことなので、和えるを創業して12年、「美しく稼ぐ」で生き残れるかどうかの社会実験に挑んでいる感覚です。最近の文脈ですと、「ウェルビーイング経営」をし続けてきている企業という観点でも注目いただくようになってきました。

松本:「美しく稼ぐ」というのは、すごく大切な視点ですね。今の日本の大企業は、とにかく「稼ぐ」「成長する」「増やす」「拡大する」ことが是となっていますから。こういう状況は、矢島さんからすると、「美しく稼いでいない」ということになりそうですね。

矢島:「和える」では、美しく稼げているかどうかを3つの指標でチェックしています。1つは、「日本の伝統を次世代につなげることに貢献できているか」。2つ目は、「売り手よし、買い手よし、世間よしの三方よし以上になっているか」。そして3つ目は、「文化と経済が両輪で育まれるビジネスモデルになっているか」ですね。

パナソニックの創業者、松下幸之助さんも、東武鉄道の社長などを務めた実業家の根津嘉一郎さんも、大茶人ですよね。茶道を始めとした文化に投資をし、文化に親しみ、そこから培った精神性や経営のエッセンスをご自身の企業哲学に反映させていらっしゃるように感じます。でも今、そうした企業は減っています。文化から学ぶことなく、ひたすら経済を回すことに特化した人が昇進し、社長になっている。その結果、経営幹部層にも、文化の香りや教養を持った人が少なくなってしまったのではないでしょうか。それも、今の経済を苦しくさせている原因の一つだと感じています。

松本:今の私たちの経営スタイルは、文化と経済を両立させながら成長するのではなく、経済だけを回してしまっているということですね。今のお話を聞いて、「理念なき経営は暴力と同じ」という言葉を思い出しました。経営者が暴君になれば、社員が不幸になるし、場合によっては会社が潰れ、地域経済も落ち込みます。矢島さんの文化のお話も、それに近いのかなと思います。

矢島:そうですね。美しいものを愛でたり、慈しんだりする気持ちを持っていなければ、たぶん経済合理性に走るしかないのでしょう。

松本:美しいものには必ず法則がありますから、ぱっと見た瞬間に「美しい」と思える感性は、経営にも生きてくるんですよね。たとえば、会社の売り上げのグラフがデコボコになっていたら美しくないと思うし、かといって急な角度のついた右肩上がりも、危なっかしいと感じる。あらゆる物事に、美意識を持ちながら向き合える人は、無意識のうちにいろいろなことをコントロールできる気がします。

矢島:私は、今中小企業の経営者こそ、美意識を持って文化と経済の両輪を回してほしいと思っているんですよ。というのも、中小企業は地元の地域振興を担う存在だからです。たとえば、地元の伝統的なお祭りが消えるか存続できるかも、中小企業次第、というような地域もたくさんあります。でも今は、中小企業も経営が厳しいですから、「いかに稼ぐか」とか「いかに売るか」という話になってしまっていて、地元の文化や伝統に目を向ける余白がなくなっているように感じます。

松本:昔は、「世の中の9割を占める中小企業が強くならなければいけない」と思っていました。でも、今はその考えも少し変わっています。会社の数ではなく就業人数で数えても、世の中は中小企業で働く人の方が多いんですよね。

矢島:7対3くらいですね。

松本:はい。それでも、大企業と中小企業は密接に仕事でつながっていますので、やはり大企業の意識が変わらない限り、中小企業も変わることは難しいだろうと考えています。

矢島:そうですね。それこそ大手がチェーン展開するスーパーで、地域の中小企業がこだわってつくっている食材や商品を優先して置くようにするとか……。そういうことを始めてほしいですね。

松本:売り上げや成長性ではなく、先ほど矢島さんが話してくれた、「三方よしになっているか」とか「未来の資源を先取りしていないか」ということが、企業の評価ポイントになればいいんだけど、たぶんその観点は、日本にはまだないですよね。

矢島:その視点を持つために、これからは「インパクトレポート」が重要視されていくべきと思っています。日本ではなじみがないかもしれませんが、欧米などでは数十年以上前から出ています。インパクトレポートは、いわゆる経済誌が取りあげるような「経済の中で経済を回す人たちの成績表」のような指標ではなく、「自分たちの事業が、どれだけの変化を世の中に与えたか」を測る指標です。

松本:なるほど。もしくは、使ってもらった年数もインパクト評価になりそうですね。

矢島:そうですね。ごみを必要以上に生み出していないか、文化を伝えられているか、児童労働につながっていないか、健康被害を受けながら働いている人がいないか……。そういうところで企業を評価して、就職先を決めたり、商品の買う・買わないを決めたりできるような状態にすることが、すごく大事です。これなら中小企業も大企業と同じ土俵で戦えます

まずは、大企業の意識を変えることから

矢島:その実現のためには、まずは大企業のようないわゆる経済インパクトの大きい企業に心を入れ替えてもらうしかありません。そういう意味では、私はオーツー・パートナーズが大企業の意識を変えてくれると期待しています。

松本:ありがとうございます。矢島さんから見て、どういうところで私たちは大企業に対して貢献できそうですか?

矢島:松本さんは、「経済を追い続けることが本当の幸せではない」「立ち止まる勇気を持ってほしい」と、はっきり伝えることができる人です。これからは、売上や業績の大きさだけではグローバル企業を名乗れなくなる時代がくるでしょう。日本の人口は少子化が進み、減少しています。これを機に、大企業は「足るを知る経済」にシフトチェンジしてもらいたいですね。そしていつか、「未来の資源を先取りする企業が一つもない」ということで、日本が世界から注目されるような状態に導くことができたら、すごく面白いですよ。

松本:私たちは経済面だけにフォーカスしたコンサルティングをすることはありません。効率化や業績改善に向けての助言はもちろんしますが、同時に、文化を育てることや企業理念を持つことの重要性などもお話します。ときには、「今の伝え方だと、みんなが楽しく働けないですよね」とか「それは経営者として間違っていませんか?」といった言いづらいことも、はっきり伝える。それが、私たちだけの強みだと思っています。

矢島:そういうところが、すごく人間くさくていいですよね(笑)。だから私はオーツー・パートナーズに親近感を覚えたのだと思います。これからもずっと、松本さんが「足るを知る経済」を実現させていく様子を、近くで見守っていきたいですね。

松本:私がこれから意識してチャレンジしていきたいのは、先ほど矢島さんから出てきた「美しく稼ぐ」ということですね。「稼ぐ」という営みの中で、お客さまと社員を幸せにし、社会にも貢献していく。そういうビジネスの一つのモデルケースを生みだせたらいいなと思っています。ありがとうございました。

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