【第3回前編】和える代表取締役・矢島里佳

2023.12.08
  • 対談連載『リーダーのアタマのナカ』

未来の資源を先取りしない、行き過ぎた成長は目指さない。文化と経済の両輪を育む「美しい稼ぎ方」。

オーツー・パートナーズの代表取締役社長・松本晋一が日本の製造業を元気にしたいという志を持つ各界のキーマンにインタビューする対談連載『リーダーのアタマのナカ』。今回ご紹介するのは、株式会社和える代表取締役の矢島里佳さん。2023年よりオーツー・パートナーズの社外取締役として参画しています。今回は、矢島さんが考える「美しい稼ぎ方」や「足るを知る経済」などについてお話を伺いました。

プロフィール 矢島里佳 株式会社和える/代表取締役
慶應義塾大学法学部政治学科在籍中、「日本の伝統を次世代につなぎたい」という想いで、株式会社和えるを2011年に創業。幼少期から日本の伝統に触れられる環境を創出すべく、“0歳からの伝統ブランドaeru”を立ち上げ、全国の職人と共にオリジナル商品を生み出す。伝統を活かした空間プロデュース事業、教育事業、地域企業の伴走型リブランディング事業等、文化と経済を両輪で育む事業を複数展開。2023年1月より、株式会社オーツー・パートナーズ社外取締役に就任。

日本の伝統を、次世代につなげる仕組みをつくりたい

松本:矢島さんは、2011年の大学4年生のときに、日本の伝統品や伝統技術を用いた商品の企画・デザイン・販売を行う株式会社和えるを創業されました。起業に至るまでには、どんな想いがあったのでしょうか?

矢島:私は、ずっと「日本にあこがれる日本人」でした。東京生まれ、千葉のベッドタウン育ちのためか、身近になかった着物や和の雰囲気に惹かれ、中学校では茶華道部に入部。そこで出会った日本の伝統や文化が私の琴線に触れました。後に、「ジャーナリストになりたい」という想いとこの経験が和えられ、今の和えるの誕生につながります。

その後、縁あってフリーライターのお仕事をいただけることになり、数々の魅力的な伝統産業品を手がける職人さんを取材しました。そこで確信したんです。「伝統や文化に関心の薄い人が多いけど、それは知らないだけなんだ」と。私の人生は、日本の伝統に出会ったことですごく豊かになりました。だからそういう人は、ほかにもきっといるはずです。そう考えた私は、伝統と触れ合える仕組みを世の中に生み出して、心身ともに豊かになれる人を増やしたいと、起業を決意しました。

小さいころから伝統品を使ってもらえる機会をつくろうと、「0歳からの伝統ブランドaeru」を立ち上げました。日本全国の伝統産業の職人と共に手づくりした、オリジナルの日用品ブランドです。赤ちゃんのときから、大人になっても使える、引き継いでもらえる商品を取りそろえています。

「買う」ことは、未来に残したい企業を応援すること

矢島:食べ物もそうですが、私は素材からこだわり、丁寧につくっている生産者さんやつくり手さんにお金を払いたいのです。例えば、流通コストを下げるためや、生産効率を上げるために開発されたパンより、地元のパン屋さんが素材にこだわって手づくりしたパンを食べて、応援したいですね。

松本:なるほど。「買う」という行為は、自分のためにする感覚があるけれど、つくり手を「応援する」という見方もありますね。いわゆる「推しを推す」のと同じ感覚で。

矢島:はい。「何を買うか」は「どんな会社を支持するか」につながり、最終的には「私たちがどういう未来を次世代に残したいか」という選択につながると思っています。

松本:料理人も農家も職人ですし、「食」と「ものづくり」には、共通点がありますね。でも、こと製造業やものづくりの世界では、「脱職人」を成し遂げたところが大きく成長するという現状があります。そこに対しては、どう思いますか?

矢島:うーん。そこは、その人が何を目指したいか、ということだと思います。ものづくりと向き合う職人であり続けたいのか、経済合理性の中で成功を目指したいのか。後者なら「脱職人」を選ぶことになるでしょうね。ただ私は、大量生産や大量消費を必ずしも悪だとは思っているわけではありません。それこそ、食料危機の問題が迫っている今、すべての農産品をオーガニックでつくっていたら、おそらく人類は生き残れませんから。

松本:食料が行き届かなくては困るので、ある程度は合理性も必要ですね。

矢島:ただ、もし「人間と環境に優しいものを支持したい」という人が増えて、大企業がそこに本気で取り組めば、オーガニックでも効率的な大量生産ができる道は探せると思うんです。そうなれば、もっといい未来になるはずです。

松本:経済を回すためにつくり手が納得していない商品が市場に出てしまうことは、製造業にもありますね。その危うさも感じています。そうはいっても、「職人が納得してつくったものしか流通できない」ということになれば、今の人口に対応できない。人口が増えたことによって、つくり手が真に味わってほしいもの、本当に受け取ってほしいものが届きにくい環境が生み出されてしまった気がします。

「つくる」ことの社会的責任

松本:最近考えるんです。もし私たちが「宇宙船地球号」の乗組員だとしたら、どれくらい先まで地球の資源をもらって、ものをつくっていけるんだろう、って。もしかすると、製造業がものづくりを禁止される時代が来るかもしれない。「御社の年間の鉄の使用料は、上限何トンです」と急に言い渡されたりして。「ものをつくって稼ぐ」という製造業の生業事態を、どこかで終焉させなくてはいけないのかもしれないな、と。そう考えると、「つくる」ことの社会的責任は、とてつもなく大きいなと感じます。

矢島:私も起業するときに、そこに関してはすごく悩みました。というのも、ある焼き物の職人さんが、「私が作れば作るほど、この地球にごみを生み出してるのかもしれない」と、おっしゃったんですね。それがすごくショックで。「なぜ職人さんが、自分はごみを生み出しているかもしれない……と思いながらものづくりをしなければならない時代になってしまったのだろう」と。これは経済を回すために、どんどん消費してまた買うというサイクルを推し進めてきた、企業の功罪があり、それに乗ってしまった消費者の責任でもあります。

松本:なるほど。企業が経済活動のために買い替えを進めさせてきたんですね。

矢島:はい。だから「0歳からの伝統ブランドaeru」を立ち上げたときは、職人さんたちが「ごみを生み出している」なんて考えなくて済むものづくりとはなにか、ということを、とことん考えました。そして決まったのが、「一生涯使い続けて、代々引き継がれるデザイン設計」と「お直しのサービスを同時に立ち上げる」という2つの方向性です。また、一生使い続けてほしいから、子ども向けの商品でも、キャラクターなど可愛すぎるものは入れません。人々に、消費者から暮し手になってほしい。そんな想いを込めて作ったブランドです。aeruの商品はパッと見て可愛いから買おう!という簡単に消費を促すデザインではなく、ロングライフデザイン。ブランドのコンセプトの理解者を増やす必要があり、じわじわとその良さが伝わるまでに時間がかかると思います。そのため、売る人の「伝える力」が重要です。だからこそ、私たちは伝える職人集団であることを意識しています。

(後半へ続く)

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