【第2回後編】クールスプリングス代表取締役・三枝幸夫

2023.11.16
  • 対談連載『リーダーのアタマのナカ』

日本の先駆的CDOが伝えたいこと。DXのリーダーは「D(デジタル)」より「X(改革)」に注力すべき

オーツー・パートナーズの代表取締役社長 松本晋一が日本の製造業を元気にしたいという志を持つ各界のキーマンにインタビューする対談連載『リーダーのアタマのナカ』。今回ご紹介するのは、クールスプリングス株式会社、代表の三枝幸夫氏。ブリヂストン、出光興産でCDOを務められた三枝さん、現在はDX支援、賃貸不動産、飲食店などの事業を営んでいます。

プロフィール 三枝幸夫 クールスプリングス株式会社/代表取締役
国立東京工業高等専門学校卒業後、ブリヂストン入社。2013年に工場設計本部長となりグローバル展開を推進。2016年に生産技術担当の執行役員に就任。2017年よりCDO・デジタルソリューション本部長。2020年に出光興産へ執行役員CDOとして移籍、2021年に執行役員CDO/CIO兼デジタル・DTK推進部長、同2021年「Japan CDO of the Year」を受賞。2014年には、会社勤めと並行してクールスプリングス株式会社を創業。DX支援事業、賃貸不動産、飲食店等を営む。

DXは、事業変革そのもの

松本:三枝さんは、アメリカでの経験を大いに活かしながら活躍し、2017年には日本では未だほとんどいなかったCDO(Chief Digital Officer 最高デジタル責任者)になられました。そう考えると、三枝さんの歩みの中にCDOとして必要な資質のヒントがある気がします。その一つは、リーダー自身が現場の声を聞き、仮説を立てられることなのではないでしょうか。普通、最高責任者という立場であれば、自ら現場のヒアリングに行くことはないですよね?

三枝:そうかもしれませんね。でも、私も聞きますが、チームのメンバー全員にも聞いてもらいますよ。現場に足を運ぶと、いい話がいっぱい聞けるというのは、自分自身の経験からも実感しています。それに、自分で仮説を立てて、その通りに物事が進むのって、面白いじゃないですか。

松本:ブリヂストンだけでなく、日本企業でもほぼ初のCDOだったと思いますが、前例がない中で、どのように新しいポジションを立ち上げられていったのですか?

三枝:まず、CDOという名称は、完全に僕のミーハー心から付けました(笑)。「今アメリカのイケてる企業では、デジタル変革をつかさどるポジションを“CDO”とするのが流行っているらしい」と耳にしたので。

松本:つまり、DXの責任者ですね。

三枝:そうです。ただ伝えておきたいのは、DXを進めることを目的にCDOをつくったのではないということです。その頃、ブリヂストンは新しい戦略を打ち出しており、その達成のためにはデジタル化が欠かせなかったのです。当時のタイヤ業界は、製造技術が一般化してきており、中国や韓国のタイヤメーカーもどんどん実力をつけて台頭してきていました。そういう中で、日本を代表するタイヤメーカーであるブリヂストンが生き残っていくために打ち出した方針が、お客様に新しい価値を提供するソリューションカンパニーに生まれ変わることでした。

タイヤは、単に買っただけで役に立つものではありません。車に装着して、空気を入れて、運転して、はじめて役割を果たせるようになる。こうしたタイヤの本質に立ち戻ってみると、お客さまが求めているのはタイヤそのものではなく、たとえば安全に移動できることや、必要な時に必要なタイヤがすぐ手に入ること、コスト面でメリットが得られること…等々なんですね。だから、よりお客さまのニーズに応えられる企業になるためには、タイヤそのものを売ることから、サービスとしてのタイヤを提供することにシフトしていくことが必要でした。そのためには、サプライチェーン全体をデジタルでつなぎ、確実にお客さまにタイヤが届く仕組みや、タイヤのメンテナンスをスムーズに受けられる体制をつくる必要があります。そこで、デジタルやコンピューターに詳しい私に、白羽の矢が立ったのです。社内初のDXを進めるからには、今までの常識を打ち破っていかなければならないと考えた私は、その覚悟を示すためにも、「やるからにはCDOとしてDX部隊を組織したい」と進言しました。

松本:自ら進言をしたんですか?

三枝:人事発令は自分で書きました(笑)。

松本:それが今から6年前ですよね。ついてきてくれる人は、まだ少なかったのではないですか?

三枝:そうですね…。私たちDX部隊はまず、「お客さまを知り、ニーズを掘り起こすことからはじめよう」と決めました。そして、販売やサービスの部門に、「運送会社やディーラーなどのお客さまを紹介してほしい」と頼み込んだんです。でも、最初は「なんでデジタル部隊がそこまでするのか」と、怪訝な顔をされました。そして、私たちがやろうとしていることを伝えると、「そこは、デジタル部隊がやることではないのでは」という反応が返ってくるんです。

松本:なるほど。

三枝みんながデジタルに持っているイメージは、コンピューターやITで、社内のシステムを整えるようなことだったんですよね。でも、「それにはまだ早い」という話をしました。DXといえば、AIやITというキーワードが出てきて、「デジタル化すること」という先入観が、経営側にも現場にも、根強くあります。そうではない。DXは、「事業変革」そのものです。それを経営側にも現場にも理解してもらい、共に変革を進めてもらえる体制をつくらなければなりません。簡単なことではありませんが、DXのリーダーは、テクノロジーを導入する役割に固執せず、「会社の業務の進め方を変えるんだ」と、強く意識することが大切だと思います。

新たな活躍の場を求め、ブリヂストンから出光興産へ

松本:ブリジストンのCDOを3年勤められた後、出光興産へCDOとして転職されましたね。30年勤めたブリヂストンを出る決意をされたのは、なぜですか?

三枝:出光興産から声をかけていただいたことがきっかけではありますが、ブリヂストンでのCDOとしての役割が一段落した、というのが大きかったですね。おかげさまで、タイヤをサービス化するためのプロジェクトは順調に進みはじめ、それぞれの事業部でプロジェクトを拡大していくという段階にまでたどり着きました。そうなると、個人的には「また何か新しいことをやりたいな」という想いが生まれてきて。違うフィールドで力を試したい、という気持ちになっていました。また、出光興産は、ちょうど昭和シェル石油との経営統合を行った時期で、脱炭素化の推進など事業領域を広げるため、DXを進めようとしていました。それで私に声をかけてくれたのです。世界中でグリーンとデジタルへの移行が進む中、そのキープレーヤーとして活躍できることに、胸が高鳴りました。

松本:三枝さんは、何もないところから価値を生み出す「ゼロイチ」が、本当に好きなんですね

三枝:誰もやっていないことをやるのは、好きですね。

松本:また、前回も少しお話が出ましたが、ブリヂストン在職中に起業もされていますよね。

三枝:はい、在職中に会社を立ち上げて、不動産賃貸業や飲食店の経営をしています。もう10期目に入りました。

起業成功のカギは「デジタル×不動産」

松本:いつから起業しようと思われたのですか?

三枝:考え始めたのは、ちょうどブリヂストン時代に取締役会で立たされ、怒られた直後ぐらいですね(笑)。

松本:どんな気持ちの変化があったのでしょうか?

三枝:私の母方の親戚が、自営業者ばかりなんです。だから、「私にもきっと商売人の血が流れているんだな」というのは漠然と思っていて、いつかは自分で事業を起こしてみたい、という気持ちはありました。それに加えて、前回お話したアメリカの建設プロジェクトの一件で、「会社員は、いつ仕事を失ってもおかしくないんだ」という当たり前のことにも、改めて気づきまして。それで、自分の資金で無理なく買える中古のアパートを購入し、そこを管理しながら家賃管理収入を得るビジネスを始めました。これなら、あまり手間がかからないので、会社員をしながらでもできそうだと。いわゆる不動産賃貸業ですね。

松本:ほかにも、そういう会社って世の中にあるのですか?

三枝:たくさんありますよ。

松本:差別化はどのようにしたのでしょうか?

三枝:私のバックグラウンドであるIoTに特化した物件にしようと考えて、実行しました。太陽光パネルやスマートロック、監視カメラなどを取り付け、個人では設定に手間のかかるWi-Fiを完備。自分で製品を買ってきて取り付けたので、少ない投資で、物件の価値を高めることができました。 

松本:IoTに特化することで、物件の価値を上げたんですね。

三枝:はい。家賃を引き上げるのは難しいのですが、入居率が上がり、「いつも部屋が埋まっている」状態になりました。不動産業界にはデジタルが苦手な方も多いので、これらをパッケージ化して不動産の企業や大家さんに販売してみたい、なんてことも考えています。

松本:これは、三枝さんがデジタルに強いからできることですよね。ともすれば、「製造業のエンジニアが不動産経営なんてできっこない」と言う人もいるかもしれませんが、不動産業界に足りないものを本質的に見抜き、それを得意分野で解決していったということですよね。

三枝:そうですね。これは一つの「エコシステム」でもあると考えています。僕は不動産の専門家ではないので、良い土地やアパートを探すことはできません。でも、信頼できる不動産屋のパートナーがいて、後継者がおらず古いアパートを持て余している大家さんがいる。それらのネットワークを活かして、自分の強みであるIoTを組み合わせることによって、物件の価値をあげていくんです。それを自分の会社で実現することができたのはうれしいですね。

日本の製造業が培ってきたノウハウを、ほかの産業へ

松本:今のお話にもヒントがありましたが、製造業のノウハウをほかの業界に展開することが、今後、日本のGDPを底上げしていくための一つの手段になるような気がしています。日本の製造業は、GDPに占める割合が高く、グローバルで競争力を持つ唯一の産業です。だからこそ、ものづくりに集中するだけでなく、自分たちが培ったノウハウを体系化し、ほかの分野で活かすことを模索する使命があるのではないかと、常々考えていました。三枝さんは直感的に、ご自身の会社でそれをやられているのだと思います。

最後に、三枝さんから、今後CDOやDX責任者を担う人たちへ向けたメッセージをお願いします。

三枝:先ほどもお伝えしましたが、DXというと「デジタル化を目指す」という先入観があるかもしれません。でも、やるべきは事業改革であり、DXはそのための手段です。特にリーダーは、「D(デジタル)」よりも「X(改革)」の方に、8割のパワーを割かなければ、会社は変わらないと思います

松本:「X」の取り組みをうまくやるためには、何が大切ですか? 

三枝:やはり、自分自身が事業領域に詳しくなることですね。現場の状況を知っておく必要もあるでしょう。その上で、改革によって自分たちが目指したい世界を、根気強く現場に伝えていくことです。そのための一つの方法として、私はデザインシンキング(*)が有効だと考えています。相手の視点に立って、解決策を考えていくこの手法は、分かりにくいことを人に説明しなければならないときに、すごく効果的です。

*サービスや商品を使うユーザーの視点から、ビジネス上の課題を見つけ、解決策を考える思考法

DXによって広がる新しい世界を、分かりやすい方法で、根気よく伝え続けること

松本:三枝さんは、否定したり、押し付けることなく、その人が理解できるような方法を模索しながら伝えてくれますよね。そういう人柄にも、CDOやDX責任者になるための素質があるような気がします。

三枝:思い返せば、オーツ―パートナーズさんとは、ブリヂストンのエンジニアリング部門時代からのお付き合いですね。設備や装置の設計を、トップダウン設計に変えるところのお手伝いをしてもらいました。当時はまだ、「平面図をやめたい」と考えていたのが社内で私一人だったので、松本さんは本当に心強い味方でした。昔の古いCADの契約を切り、電源を落とすところから一緒にやっていただきましたね。

松本:そうですね。「もう切り替えましょう」というお話をしました。

三枝:部門のメンバーにとっては、今まで慣れ親しんできたやり方が変わるわけですから、受け入れてもらうのはたいへんなことで。CADオペレーターの人たちに、「本当にやるんですか三枝さん!」と、詰められたこともあります(笑)。でも、やっぱり「最後までやりきれば、こんなにいい世界が広がるんだ」ということを、松本さんがしっかり見せてくれたので、勇気をもらって進めることができました。

松本DXも事業改革も、やるべきことは同じだと思います。ほとんどの人は、突然の変化を受け入れられないし、新しく広がる世界をすぐには理解してくれません。分かってもらうためには、とことん話していくことが必要だと思います。ただ、リーダーはいろいろなことに追われていて、現場だけに向き合っているわけにはいきません。だから、リーダーと同じ世界観を描ける人がそばにいて、現場の人たちの気持ちにも共感しながら、話し合いをサポートしていくことも必要ですよね。

三枝:あのときは、松本さんがそういう立場になって、やってくれましたね。

松本:三枝さんは、リーダーとしての仕事と、現場と向き合うことの両方ができる人ですが、そういう人ばかりではありません。これからは、リーダーを支える存在も必要になってくるのではないかと思っています。ありがとうございました。

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