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日経ものづくり/エンジニアリング・チェーン改革 第2回 事例1(その2)重要施策の深掘り検討~効果を納得させる~

技術ディビジョン シニアコンサルタント 團野 晃

 

紙製品の製造装置メーカーA社は現在、”業界で世界一”を目指した業務改革プロジェクトを進めている。前回(2011年6月号)は、この改革プロ ジェクトの実行計画を策定する活動のうち、あるべき姿と現状のギャップ、つまり現状の課題を明確化することで、その解決策(重要施策)を仮決定するプロセ スを紹介した。
今回は、仮決定した重要施策を深掘り検討する活動について解説する(下図)。

 

■解決策の効果を実感

 

重要施策として前回、「標準化・モジュール化」と「部品表(BOM)の活用」の2つを取り上げた。改革のスケジュールとして定義した5カ年計画の3ステップのうち、第1段階の「既存業務の負荷を下げる」に対応した施策だ(下図)。

 

 

しかし、このような施策を掲げても、個々の技術者がその効果に納得できなければ改革はうまくいかない。実際、「標準機を売って利益を出せるのか」「一般的にはそうかもしれないが、我が社の場合でも本当にもうかるのか」といった意見が多く出てきた。
そこで、重要施策を深掘り検討する。A社が実際に業務で使用している図面やデータを用いながら、仮決定した課題解決策のうち、特に重要と思われる施策の有効性および妥当性を確認するのである。
この深掘り検討では、A社の技術者の知見が不可欠だった。彼らなら、実際の設計業務の深い部分を詳細に調査して改善ポイントを抽出して具体的な姿を提示で きる。一方、筆者らはコンサルタントの立場で、現状から目指す姿への改革を一直線に導くための方法をトップダウン的にまとめ上げる。こうすることで、初め の一歩を踏み出すための期間を長くせずに、計画を立案できるように配慮した。それでは、実際の活動内容を紹介しよう。

 

■15の活用シーンを検討

 

重要施策の1つであるBOMの活用では、BOMで管理されている製品の構成情報や技術資料などを有効に利用する体制を築くことが目標である。しかし、単に BOMの活用といっても適用範囲は幅広いし、具体的にどう活用するかというイメージは持ちにくい。深掘り検討ではまず、BOMを活用して業務が改善される シーンを具体的に決める必要がある。そこで、深掘り検討する業務シーンを選択するために、15の業務シーンを話し合いの中で列挙していった(下表)。

 

 

この中で選択されたのが、4つめの「設計BOMの先行公開によるコンカレントな業務の遂行」である。理由は、A社にとって最も効果が大きい施策となるからだ。
A社では、部分的な図面が断続的に出される、いわゆる「五月雨出図」を行うことで、全体の設計終了を待たずに先行して調達を行うようにしていた。五月雨出図は、個別受注でかつ納期までが長い製品にありがちな出図のやり方である。
このため調達部門では、出図(設計の部分確定)のたびに部品や材料などの手配を行うという業務に追われてしまい、調達・生産の最適化検討を行うことができ なかった。結果、QCD(品質、コスト、納期)が安定しないという悩みを抱えていた。これを解決するための施策として、BOMの先行公開によるコンカレン ト業務の加速が挙げられ、大きな効果が予想されたのだ。
ただし、BOMの先行公開に関しても、懐疑的な技術者は少なくなかった。
例えば「設計の部品構成だけ見ても、図面を見なければ何も始まらない」「先に部品表を出すと、早く図面を出せとフォローされるだけじゃないのか?」といった意見だ。
こうした意見や疑問に対しては、標準化が進んでくると流用率が上がることを説明し、その中には図番が同じ共通品や少し寸法を変更するが形が似ている流用部 品、現状では類似部品や流用できる技術がなく、新しく設計しなければならない新規部品、があることを整理した上で、新規部品が実際には少ないことを確認し た。
さらに、流用部品をBOM上で登録する際に、品番の付属情報として流用元の情報を付加する方法を提案した。流用部品は新しい品番になるが、似ている過去の部品が付属情報として分かれば、ある程度の計画や手配しなければならない材料などが分かるのではないかと聞いてみた。
前述の懐疑的な意見を持っていた技術者も、「そうか、それが分かれば、並行している他の案件を含めて、まとめて手配したり、歩留まりを検討したり、在庫を引き当てたりすることが可能になる」と納得した。
このような議論を続けていると、「いつ出図してくれるかという情報もあった方がよい」「類似図面でも十分だから、おのおのの品番からすぐに図面を見られる ようにしたい」という提案も出てくる。このような提案は、生産管理で実績を持っている生産リードタイム(LT)の情報を使って、組み立てる期日から遡って 算出した「手配しなければならない日程」「図面を出してほしい日程」を教えられるような仕組みの構築へとつながる。
実際、A社における深掘り検討の中では、そこで出てきた意見から新たな施策を計画に追加することになった例も少なくない。例えば、「今の生産管理内のLT のデータはかなりバラついている上、余裕を見ている。そのデータを活用するなら、もっと正確なデータに整備する必要がある」といったものだ。
そのため、そのデータを整備するルールを作成することと、実際に整備するという施策を追加した。
さらに、「もっと流用品が増えたら、何もしなくても、自動で発注がかかるようにならないのか」といった意見もあった。実際、そのような仕組みを導入してい る企業は存在するが、BOMで管理する付属情報が多いとかなり難しい取り組みになる上、新たなシステムの構築も必要になる。そこで、高度な活用になるため 実現するには時間がかかるが、長期的な計画として組み込むことにした。

 

(続きは、下記よりPDFをダウンロードしてご覧ください)

 

出典:PDFを含む掲載記事は、日経BP社『日経ものづくり』 2011年7月号 p98~102「エンジニアリング・チェーン改革」より、日経BP社の了承の下、掲載しております。