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日経ものづくり/体質改善3D設計 第14回 エレ/メカ連携2~物理の視点で捉える~

リサーチ フェロー、Ph.D. 前田篤志

 

前回(2011年4月号)は、多くの機械製品には電気・電子部品が組み込まれており、機械設計と電気・電子設計の融合、すなわちエレ/メカ連携が不 可欠になってきていることに触れた。加えて、現状のエレ/メカ連携はコンピュータの発達に伴って機構設計で培われてきたCADという環境の上に構築される 形で進んでおり、メカ/メカ連携の域を脱していないと説明した。
それでは、真のエレ/メカ連携はどのようにしたら実現できるのか─ 。
今回は、筆者らが提案する「N-BREATS」と呼ぶ方法論を紹介しつつ、そのための方向性を解説する。

 

■まずは基礎領域に歩み出る

 

真のエレ/メカ連携を実現するために筆者らが重要と考えているのは、端的に言うと、発生している現象を電気・電子工学と機械工学の共通基盤(基礎)となっている物理の視点で捉えられるようにすることである。
N-BREATSは、そうした物事の見方へと技術者を促す方法論の1つである。
日々の業務に追われる技術者は、とかく自分がやっていることを中心に物事を考えがちである。それは、まさしく自身の専門領域からしか物事を捉えていないと いうことを意味している。そうした事実をあえて取り上げることによって、一度基礎領域という中立的な領域に歩み出る。この基礎領域から眺めるという行為 が、物理現象として全体を俯瞰することにつながるのだ。
筆者らは、技術者の学びの階層を基礎、基本、応用の3段階で考えている(下図)。基礎とは高等教育課程で教わるレベルで、電気・電子工学とか機械工学という分け隔てのない共通基盤としての物理学のようなものを指す。
基本はこれとは異なり、機械工学では流体/熱/材料/機械力学など、電気工学では電磁気学などというように、各工学の専門教育レベルの知識をいう。
これらに対して、応用は高等教育や専門教育で身に付けてきたさまざまな知識を使いこなせるレベルを指す。

 

 

通常は、基礎を繰り返すことで基本を習得し、経験を重ねることによって応用レベルへとスキルを伸ばす。だが、ブラックボックス化したままの流用設計を繰り 返し、社内で基本を充実させていくというプロセスを省いてしまうと、経験年数が10年以上の中堅技術者になっても自身の専門分野の基本ですら習得しきれな いケースが出てくる。
その結果、応用を支える基本部分に空洞が生じてしまい、新たな付加価値を創造する定性的な思考の世界へ踏み出すことができなくなる。すなわち、既存の枠組 みの中での改善や管理という思考(ここでは、これを定量的な思考と呼ぶ)に立脚した従来の延長線上の開発・設計しか行えなくなってしまう。
真のエレ/メカ連携を実現するには、電気・電子系技術者(以下、エレ系技術者)ならメカ、機械系技術者(以下、メカ系技術者)ならエレといった、自身の専 門とは異なる分野も含めて技術を俯瞰できる能力を習得していくことが不可欠である。そのためには、双方の共通基盤である物理(基礎)に軸足を置き、思考に のりしろを与えるために基本領域を拡張し、既存の枠組みにとらわれることなく発想する習慣を身に付けていくことが重要なのである。

 

■過去事例を使い基本から議論

 

もっとも、2つ以上の専門分野を俯瞰する能力を身に付けることは簡単ではない。そこで、N-BREATSでは定量的な思考の領域で効果を発揮させるプログ ラム(Type-A)と、定性的な思考の領域に踏み込んで真の連携を実現するプログラム(Type-B)の2種類を用意している。前者は、既存の開発・設 計資産を利用することで、開発・設計対象のさらなる改善を目指すものである。一方、後者は、あるべき理想の姿を明確に設定し、その実現にはどんな技術が必 要かを物理の視点から割り出していく能力を身に付けていくためのものである。
例えば、Type-Aのプログラムを、下図の右上の写真のようなプラズマテレビの開発・設計に適用すると以下のようになる。ここでは、エレ/メカ連携にお いて重要なテーマの1つであるEMI(Electro-Magnetic Interference)問題に絞って説明しよう。ちなみに、以下の事例はエレ/メカ連携というよりは、高周波(RF)技術者と電源などのいわゆる回路 技術者の連携になっているが、回路技術者とメカ技術者の役割は近く、Type-Aのプログラムの適用イメージをつかむことは可能だと思う。
下図の右上の写真において、太い実線の枠で囲った領域は、いわゆる回路技術者が担当する、主に電源回路を中心とする低周波回路(アナログ回路)である。その隣の破線の枠の部位は仕切り壁。それを境に中央に搭載されているのが一点鎖線の枠で示したRF回路である。
通常、プラズマテレビのようなフラット・パネル・ディスプレイ(FPD)は、最先端の高密度実装によって電子部品がぎっしりと搭載されているとの先入観を持つが、実際にはそうではない。
EMI問題の加害者に成り得るRF回路部は、一点鎖線の枠の部分のみと限られている。同回路部は占有面積が小さいにもかかわらず、機器全体の性能をも左右 しかねないノイズ問題を引き起こす可能性の高い部分であり、エレ系技術者とメカ系技術者の双方において厄介の火種になっている。

 

多くの場合にRF回路部に起因したノイズが問題になるのは、RF回路部の設計が応用レベルでなされるからだ。通常、アナログ回路部は、高等教育課程レベル の基礎を忠実に用いることによって回路全体が滞りなく動作するように設計する。このため、メカ設計との親和性も高い。これに対して、RF回路部は応用レベ ルでの設計となるため、電磁気学だけではなく量子力学、電子工学、電子物性工学などあらゆる学問が次から次へと顔を出してくる。
その結果、電子回路にRF回路部とアナログ回路部というようなすみ分けが発生し、それぞれのブロックを個別に発展させるというモジュール化が加速する。これにより、中身がブラックボックス化しやすくなり、ノイズの原因を取り払うことが困難になっているのだ。
アナログ回路部の場合は信号の伝送速度が遅いため、外部へのノイズの影響をあえて考慮する必要がない。しかし、高周波を扱うRF回路部の場合はそうはいかず、ブラックボックス化による情報の欠如が問題になってくるのである。
こうした対象に関して、Type-Aのアプローチでは問題(ノイズ)を根本から取り除くのではなく、対症療法的な対策を施すことで設計の改善を目指す。具 体的には、ノイズには「伝搬(伝導)ノイズ」と「放射ノイズ」の2種類しかなく、ノイズの出し手(加害者)となるか受け手(被害者)となるかの違いを含め てもノイズの伝わり方には4種類しかないことをしっかりと認識した上で、「フィルタによるノイズの除去」および「シールドによるノイズの遮蔽」という限ら れた手法を徹底する。
その際、エレ系技術者内においては、過去の事例を活用しながら電気工学の基本の1つとなっている電磁気学のレベルで議論を交わすことが重要である。一方、 エレ系技術者とメカ系技術者の間では、放射ノイズに関してはシールド力の向上を、伝搬ノイズに関しては電源ライン〔グラウンド(GND)側〕のインピーダ ンスの低減を目指す。特に伝搬系ノイズは、必ず機構設計で抑え込まなければならない。
ここでは、メカ側での対策の一例として任天堂のゲーム機「Wii」で実施されたノイズ対策を紹介しよう。Wiiのプリント基板に搭載した放熱フィンの裏側 にはフェライトコアが取り付けられている。一見、ゴムが取り付けられているかのようだが、実はこのフェライトコアはプリント基板のGND層と放熱フィンの 間に挟まれており、これが基板GND層から放熱フィンへと放射されるノイズなどを遮断する役割を果たしている。
ここで大切なのは、エレ側の現象(特に高周波領域)における不具合を、メカ設計の情報に確実に落としてやること。そして、これらのノウハウを含む事例を蓄 積し、ライブラリ化することによって同じ過ちを繰り返さないようにすることだ。当然、この場合の議論は、基礎領域における物理現象を軸に行われる。

 

(続きは、下記よりPDFをダウンロードしてご覧ください)

 

出典:PDFを含む掲載記事は、日経BP社『日経ものづくり』 2011年5月号 p101~106「体質改善3次元設計」より、日経BP社の了承の下、掲載しております。