『製造業注目!カーボンニュートラル/脱炭素社会に向けて』~サーキュラーエコノミー:持続可能性とビジネス合理性、責任から前提へ~

2023.03.03
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株式会社オーツー・パートナーズでは、「製造業DX Webセミナー2022」の第2弾を開催しました。セミナーは3部構成で、まずは創業106年の自動車部品メーカー・ソミックグループにおけるカーボンニュートラルの取り組み事例を、取締役の石川彰吾氏に紹介していただきました。続いてカーボンニュートラルと同様に注目されているサーキュラーエコノミーについて、その本質や先行するEUの状況を『サーキュラーエコノミー:循環経済がビジネスを変える』の編著者でもある梅田靖氏(東京大学大学院工学系研究科人工物工学研究センター教授)に解説していただきました。そして最後に、製造業への造詣が深い戦略コンサルタントの長島聡氏も加わり、コンサルタント、アカデミック、企業経営という3つの目線で鼎談が行われました。

ソミックグループにおけるカーボンニュートラル取り組み事例

最初に、ソミックマネージメントホールディングス取締役/ソミックトランスフォーメーション代表取締役の石川彰吾氏から、同社グループにおける現在のカーボンニュートラルについての取り組みをご紹介いただきました。

ソミックが変革を進める理由と目指す世界

石川:ソミックグループのソミック石川は1916年に創業し、自動車の足回りを支える部品「ボールジョイント」を中心に手がけています。同製品では国内シェアナンバーワン、世界トップスリーに入るまでに成長してきました。

国内では静岡県浜松市と磐田市を中心に拠点を持ち、従業員は約2000人。グローバルでは日本を含めて7カ国に展開しており従業員は6000人、年間売上高は900億円のグループです。

ソミックグループでは、2016年から会社の統廃合を進めるなど変革に取り組んできました。その背景には、自動車業界は未曾有の大変革の最中にあり、これまでのやり方では通用しない時代が到来したという危機感がありました。

変革を進めていくにあたって、経営陣でいろんな議論をしました。そもそも我々は、なぜ変革しないといけないのか。その変革を通じて、何を成し遂げるのか。

持続可能な社会づくりに本気で取り組もう。そして、幸せで豊かな社会をつくり、次の世代につないでいこう。これが100年企業ソミックの使命だと考えました。

そのためには、しっかりと我々の価値観を言語化・可視化させておくべきだと考え、100周年を迎えた2016年に理念をつくり直しました。また、2022年4月にはパーパスとアイデンティティを制定し、それを形にするためにソミックという社名の由来である「創造(SO)・未来(MI)・挑戦(C)」に対応した「大切にする価値観」を定義しました。

ソミックグループの価値観



こうした価値観をもとに、ソミックが創りたい世界を自社内で実装させ、社会課題解決を事業にして社外へ価値を提供していこうと考えています。この世界を「Somic Society」と呼び、創造・未来・挑戦できる社会を新しい社内外ネットワークで創り、次世代に笑顔をつないでいきたいという思いで取り組んでいます。

ソミックグループが目指す世界「Somic Society構想」

「自動車部品メーカー」というタグを積極的に外す

先人たちの努力のもと成長してきた既存事業を持続させるためには、やり方を新しくする必要があります(下図のA)。また、モビリティの変革に合わせた新規ビジネスでの成長も目指しています(B)。

一方で、モビリティ関連以外の事業も少しですが手がけています。こちらも既存ビジネスを新しいやり方にすること(C)、新たなビジネスチャンスを求めること(D)、両面で進めています。

自動車部品メーカーというタグを自ら積極的に外し、新しいチャレンジで世の中を変えていき、4つの事業の柱で成長していこうと考えているのです。

ソミックグループの事業



具体的な進め方の道しるべになるのが、「ソミックグループCX&SXフレームワーク」です。まず、そもそもなぜ私たちはこうした取り組みをしなければならないのか。どのようにして実現させるのか。そして、そのために何をするのか、ということを社内で議論しています。

その中で既存ビジネスについては、外部環境の変化のスピードが速い上に、大きく変わっていかなければなりません。そのために社内だけではなく、積極的に社外のパートナーの皆さまとつながり、シナジーを生みながら変えていこうとしています。

また、今まで自分たちとは関係ないと思っていた領域についても、ビジネスチャンスとして捉えて取り組んでいます。まったく新しいことですので、自社の中でできないことは社外の方たちとコラボレーションさせてもらいながら進めようとしています。

ここで大切なのは、足元にある危機に対処すると同時に、未来から見たときのバックキャスティングでチャンスを捉えることです。

こうした取り組みでは組織の対応力が問われます。経営陣はしっかりとリーダーシップを発揮しながら意思決定すること、現実・事実を直視した上で新しい取り組みを推進していくことが大切です。そしてメンバーのみんなに、新しい業務やプロセスを浸透させていくのです。

ソミックグループ CX&SXフレームワーク


このような考え方は、ドイツのソフトウェア会社SAPの「変革要素フレームワーク」を参考にしています。このフレームワークがまず大切にしているのは、「ありたい姿と大義名分」です。そして、それを実現させるための「組織」、「業務に関するプロセスとルール」、それを実現する「人財」の育成、こうした活動がうまく回っているかを「データ」で見ること、そのための「システム(IT)」が変革に必要な要素だとしています。

カーボンニュートラルに関する方針と目標

ここからは、今回のメインテーマであるカーボンニュートラルに関する取り組みについてご紹介します。先ほどご紹介した理念、パーパス、アイデンティティの下に、グループの経営戦略、方針、計画等があります。これらとリンクをさせながらグループの環境方針「BE A PIONEER 期待の先へ、次世代の笑顔へ」を実現させていこうと取り組んでいるところです。

ソミックグループ環境方針とkンきょう方針の位置づけ



取り組み内容や目標は、このように絵で示し、社会の多くの皆さんに協力してもらいながら活動しています。

ソミックグループが環境で目指す世界



弊社では現在、重点取り組み事項を3つ掲げています。「気候変動への対応」「持続可能な資源利用」「生物多様性への対応」について、2050年にどんな世界にしたいのか。そして2030年の時点ではどんなレベルにするのかという目標値を設定して取り組んでいます。また、SDGsのゴールともリンクさせています。

やはり「どうしていきたいのか」という価値観が大切だと考えており、Somic Society構想やマクロ環境などと整合を取りながら取り組みを進めています。

ソミックグループ中長期環境目標



カーボンニュートラル達成は2045年度、2030年時点ではCO2排出量を40%カット(2019年度比)する目標です。さらに2050年度では、サプライチェーンを含めてCO2排出量実質ゼロを目標に掲げています。また、チャレンジ目標として日本単独ではありますがCO2排出量を2030年に50%カット、カーボンニュートラルの達成を2040年度に前倒ししたいと考えています。

ここからは、そのための現在の取り組みをご紹介します。



何よりも我々が貢献したいのは、新しい社会、新しい世界の実現です。そのために一緒に取り組ませていただいているのがGreen CPS協議会で、GHG排出量削減とともに、激変の時代における産業界の行動変容を加速させるための活動を推進しています。関係者の皆さんと議論しながら、ソミックの既存ビジネスの新しいやり方について検討しているところです。

レクサー・リサーチ(生産革新コンサルティング、生産シミュレータ開発)

設備1台ずつのエネルギーを実測せずとも、シミュレータ上でCFPデータを自動算出できるようにすることで、両変動による影響確認やカーボンニュートラル実行に貢献可能だと考え、ソミックの製造現場で実装させながら新しいやり方を見出そうとしています。

デバイスアンリミテッド(IoTシステム開発)

電気や設備の知識がなくても簡単に電力量などのエネルギー量の収集を可能にする装置を開発しています。弊社もそうですが、今使っている設備からデータを取るのは難しいため、中小企業でも簡単に取れるようなものを作ろうとしています。自社内で実装させて新しいやり方に変えた上で、その成果を社外の皆さんに価値として提供できればと思って取り組んでいます。

ナブラス(AIコンサルティング、技術開発)

ソミックの製造現場で行っている人による外観検査を、AIを活用した設備に置き換えていこうと考えています。外観不良に対して明確な閾値を設定することで、不良品を低減し、資源やエネルギーの有効活用につながっていくのではないかと期待しています。これについても、我々のような会社や、もっと小規模の会社でも製造現場を変えていくことにつながればという思いで取り組んでいます。

リンテック(粘着素材、粘着関連機器など)

工場などの生産プロセスの過程で排出される廃熱などを利用できないかという観点で、さまざまな技術を検証しています。

こうした社外の皆さんとの活動以外に、ソミック独自の取り組みもあります。IoT技術を活用したエネルギー使用量の可視化や、エアー機器や油圧機器を省エネ化する設備開発などを行っています。

一方、新規事業の創出に向けては、森林健康経営協会とのコラボレーションを始めています。二酸化炭素の排出削減を進める企業の皆さんとの取り組みによって、既存ビジネス以外の新しいものを作り出しながら世の中を変えていこうとしています。

ソミックグループの取り組み事例

事業会社(ソミック石川)の取り組み

ここからは、より具体的な取り組みを知っていただくために、実際に自動車部品を製造する中核事業会社のソミック石川での計画と取り組み内容をご紹介します。

ソミック石川では次のように2050年に向けて目標を設定し、大きく省エネ、創エネ、活エネ、オフセットの切り口で取り組んでいるところです。

中長期環境目標(CO2)



活動内容については、しっかりと計画に落とし込んでいくとこが大切だと考えています。なんとなくテーマを掲げるのではなく、いつまでに何をやっていくのか、具体的な活動スケジュールを作成しています。

ソミック石川中長期ロードマップ全体



こうした活動を進めていくには、組織体制も大切です。ソミック石川では環境会議を設定し、それぞれの下にある分科会において活動内容を決め、各担当者が活動しています。

ソミック石川環境マネジメント体制



ソミックグループが目指す世界「Somic Society構想」では、どんな人でも創造・未来・挑戦できる社会を新しい社内外ネットワークで創り、次世代に笑顔をつないでいきたいと考えています。もしご興味がありましたら、一緒に活動していきませんか。

※ソミック石川では、さらに具体的な取り組み内容をホームページで公開しています。

https://www.somic.co.jp/about/environments_policy/

サーキュラーエコノミー~循環経済がビジネスを変える

続いては、サーキュラーエコノミーについて梅田靖先生に解説していただきました。サーキュラーエコノミーで先行するEUの動向を踏まえつつ、日本企業がサーキュラーエコノミーのビジネスを実現するための方策が示されました。

話はまず、「今はサステナビリティを企業活動の中心に置かないとやっていけなくなっており、ソミックは非常にいい事例だと思います。ソミックの石川さんの講演で刺激を受けて、急遽入れました」というスライドから始まりました。

サステナビリティは企業活動の「中心」に

梅田:環境への対応の必要性は1990年ぐらいから言われていたことですが、今はかなり大きくスタンスを転換しなければなりません。主な着眼点は3つあると思っています。

・企業活動の真ん中にサステナビリティを置く

CSRであれば、製品を作りつつ環境部門で植林や農業体験を実施するなど「罪滅ぼし」をするスタンスでした。今やソミックさんのように、企業活動の隅々にサステナビリティが浸透し、営業も工場も総務も、みんながサステナビリティとの関係を知っていなければならない。そうするのが経営陣の最大の仕事になっていると思います。

・Absolute Sustainability(絶対量ではかる持続可能性)

従来は「できるだけゴミを減らそう」「できるだけリサイクルしましょう」といった3R(リデュース、リユース、リサイクル)の話でした。それを続けていればいつかは持続可能な社会が来るだろうという、桃源郷みたいな話です。しかし今や、2050年にカーボンニュートラルを達成するなど絶対目標が決められていて、それに向かってアクションをとらなければなりません。

・戦略モデルからビジョンモデルへ

やや異質かもしれないですが、戦略モデルではなくビジョンやパーパスをきちんと掲げて、それを顧客も従業員も共有化した上で活動していくことが必須になってきたと思います。ソミックさんがど真ん中でやっていることです。

時代認識:サステナビリティを企業活動の「中心に」取り込まないと企業はやって行けなくなる

サーキュラーエコノミーとは

その一つの表れがサーキュラーエコノミーで、EU当局が力を入れて進めています。リサイクルだけでなく、さまざまな方法で循環させるのがサーキュラーエコノミーです。例えばシェアリングや長寿命化によって循環させるのですが、このとき経済的に成り立つようにしようという考え方があります。

サーキュラーエコノミーのイメージ[環境白書2016]

EUがサーキュラーエコノミーに力を入れる理由

サーキュラーエコノミーはEUが2015年ごろから言い始めたのですが、「EUの雇用の確保と企業の競争力強化に結びつく」という考え方には驚きました。それまで考えられていた循環型社会とは、さらなる3Rの推進で、コストだけれど地球のためにはやらなければいけないという話でした。ところがサーキュラーエコノミーは、発想が違う。この発想の転換が起きているのが今の時代なのです。

サーキュラーエコノミーには、大きく2つの柱があります。

1つは、プラスチックやフードマイレージに代表されるような、リサイクルを社会の中に定着させるという話です。これはそんなに儲かる話ではないでしょう。

もう1つが、脱大量生産・大量販売ビジネス社会を作る話です。従来の資本主義経済の下で循環を成り立たせようとすると、リサイクル料金を払わなければならない。そうではなく、循環するように経済の仕組み自体も変える。市場競争の座標軸を変えたり、モノづくりや価値提供のやり方を変えたりして、循環することが経済価値に結びつく社会にするというアジェンダです。

EUのCEの基本



なぜ、こんなことを言い出したのでしょうか。大きな理由は、モノからコトへという価値観の変化です。必ずしも所有しなくていい、使いたいときにシェアリングできればそれでいいよという話ですね。

それからESG金融。企業は常に襟を正して、常に正しいことをやっておかなければ、その評価が投資適格性に反映されるようになっています。ここ1、2年で企業の関心がカーボンニュートラルだけでなくサーキュラーエコノミーにも向かっているのは、この影響だと見ています。

そしてEUがサーキュラーエコノミーだと言い出した理由の一つに、主導権をメーカーからユーザーや地域産業に移行させたいという意図がありました。ヨーロッパは自動車産業が強い一方で、それ以外の家電やOA機器については基本的に日本を含めたアジアからの輸入が中心なので「買わされている」ように見えているわけです。フランスでは修理権の議論も起こり、例えばユーザーがスマートフォンの電池を替えられないのはおかしい、という話になっています。

こうした流れを下支えするのがデジタル技術ですが、我が国は遅れている状況です。


加えて昨年ごろからは、人為的資源枯渇が指摘されています。天然資源は存在していても、コロナ禍やウクライナ情勢によってサプライチェーンが途絶してしまい、モノを作りたくても作れない状況がありました。そこで、リサイクルや循環といった手段を持っておけば、ある種の安全保障になるという発想も出てきたのです。

CEのドライビングフォース



EUでは、製品の設計に対する指令やルールに展開することで、サーキュラーエコノミーの実装を進めています。例えばサーバーは、エコデザイン指令に基づいていなければ市場に入れません。ヨーロッパにはサーバーメーカーはないので、アジアや日本、アメリカなどから入ってきた後、リースアップしたものをリユース業者がデータ消去、ファームウェアの最新化、消耗部品の交換などを行って新たなビジネスにするための、儲けの路線を敷いているわけです。

このように明確なシナリオがあり、それに沿って法律を展開しているのがEUの強みでしょう。

EUにおけるCEの実装



最近ではパソコンや電気自動車の電池が規制対象になりました。リサイクル材料を使わなければ電池として認められない。これもリサイクルを促進するためには大変強力な手段です。

例えば、電池規則案[日経BP、2021]



さらに2022年に入ってからは、エコデザイン「指令」がエコデザイン「規則」にアップデート。すべての製品をエコデザインしないといけなくなりました。なおかつ、デジタルでデータを提供しなければなりません。

エコデザイン規則案(1)


エコデザイン規則案(2)


さらに、国際規格でも動きがあります。サーキュラーエコノミーの規格であるISO TC323の策定には私も関わっているのですが、非常に白熱した状況です。例えば、どれぐらいリサイクルできるか、有害物質がどこに入っているか、といった情報を提供しなければいけないように規定されつつあります。

ISO TC323(サーキュラーエコノミー)


欧州企業がサーキュラーエコノミーに取り組む理由

こうしたルールをうまく使うことで、サーキュラーエコノミーに先進的だと言われている企業があります。代表的なのがドイツのシーメンスで、5つのサーキュラービジネスモデルを用意しています。

①サーキュラーインプットモデル(リユース、リマン) ②廃棄物の再利用・再生品

③寿命延長 ④PaaS(リース) ⑤プラットフォーム戦略(シェアリングビジネス)

シーメンスはインダストリー4.0を引っ張ってきた一社で、工場のシステムに強いわけですが、このシステムを「プロダクトサービスモデル」や「プラットフォームモデル」という名前でサーキュラーエコノミーと関連付けて、アジアの国に最新鋭のIoTやスマート生産のシステムを導入して支援しています。オペレーションやメンテナンスはシーメンスでなければできないので、長くサービスを提供することで儲けていこうとしているのです。

2018年ごろ、サーキュラーエコノミーに取り組む理由について欧州企業にインタビューしました。彼らは、サーキュラーエコノミーに関する司令や規制等が欧州から波及する兆候から、世界のどの地域でもサーキュラーエコノミーの考え方が展開されていくと予想しており、準備しておくことで競争力優位に立て、ミニマムコストで先手を打つことができると考えていました。

企業にとって重要なポイントは3つあります。

・プロアクティブなアクション
・ステークホルダーとのコミュニケーション
・実施していることをPR

欧州企業は、サーキュラーエコノミーを椅子取りゲームだと考えています。新しい市場ができるのに、それに食いつかなければ別の会社に将来の伸び代を削られてしまう。それが許せない、というのが彼らのメンタリティーです。

一方で日本は、どちらかというと動かない。現状維持や国内の市場シェアを減らさないことを考えている。しかし、「ゆでガエル」だっていつかは耐えられなくなります。欧州との落差の激しさを見ていると、日本はまずいのではないかと思えてきます。

議論の焦点は「サーキュラー(循環)」ではない

日本が1990年代初頭から取り組んできた3Rや循環型社会は、基本的には埋立処分場の不足が発端でした。ですから廃棄物行政であり、ゴミの話です。結局、大量生産と製造側のスタイルは変わらないまま、大量リサイクルの方向に行きました。そこそこできてしまい、もうやることはないと思っていたところに、サーキュラーエコノミーという黒船がやってきた。それが私の正直な感想です。

これに対して、サーキュラーエコノミーは資源枯渇対策であり、サステイナブルな世の中を作るという発想です。3Rが手段なのに対して、サーキュラーエコノミーは社会システム。そのため、製造側のビジネスの仕組みを変え、かつ提供手段を脱大量販売にするようなこともアジェンダの中に入ってくるのです。

だからこそ重要なのは「サーキュラー(循環)という言葉に引きずられ過ぎてはいけない」ということです。リサイクルももちろん大事ですが、議論の焦点は脱大量生産・大量販売ビジネス社会をどうやって作るかという話に移りつつあるためです。

日本型「3R・循環型社会」から次のステップへ


サーキュラーエコノミーとは何なのか、話が分らなくなってきたかもしれません。そこで、私が思うサーキュラーエコノミーを紹介しておきます。

人々の豊かさや国の経済、企業の競争力を追求する人間の活動は止まらないわけですよね。それを地球の有限性の範囲内に収めるのが、究極のサステナビリティの姿だと思います。そのためには、あらゆる手段を取らなければなりません。

資源面ではサーキュラーエコノミー、温暖化ではカーボンニュートラル、自然資本ではネイチャーポジティブという考え方になりますが、幹は一つです。それぞれの側面で定めた中間目標がカーボンニュートラルやサーキュラーエコノミーという言い方になっています。ですからサーキュラーエコノミーは、最終的にゴールに近づくかどうかで手段を評価すべき。つまり、リサイクルをやればサーキュラーエコノミーだという話ではないのです。そこがポイントだと思います。

私が思うCE


あらゆる手段を取るときに重要なのが、デカップリング(相関の切り離し)という考え方です。人間の幸福は時間経過とともに上がってほしいが、同時に経済活動も上がってほしい。一方で、経済活動とCO2の排出量には極めて強い正の相関があると言われていますから、経済活動を上げるとCO2も増えてしまいます。資源利用量も増えるでしょう。

そうではなく、資源や環境影響は増えないで人々の幸福だけが上がるように分離するという意味でのデカップリングが、ある種のキャッチフレーズになっているわけです。

デカップリング


Vision-Meso-Seeds(VMS)モデル

サーキュラーエコノミーとは何なのかという話から、実装の話へと移ります。

燃料電池やリサイクルなどの技術を一生懸命に開発すれば、いきなりサーキュラーエコノミー社会ができるのでしょうか。それは無理があります。

VisionとSeedsの間にはMesoがあります。ここは社会システムと言ってもいいでしょう。新しい技術を入れることによって副作用が起きたり、バックファイアーが起きたりすることはよくあるわけです。技術は社会の中に根付かせなければならない。

ですので、技術開発の視点だけではなく、Mesoレベルにおいてどうビジネスを展開するのか、どういう社会の仕組みを作るかが大切です。サーキュラーエコノミーでは、Mesoレベルでどういう社会を作ろうかという議論が主たる観点だと思います。

そのために我々は、ライフサイクルの産業化を研究の対象としていて、ここで書いてあるようなキーワードで議論をしています。ここからは、それぞれについて紹介していきます。

VMSモデル


Mesoレベルをデザインするための考え方

ライフサイクル産業化

今の製造業はたくさん作って売ることが宿命になっていて、いつまで経ってもサーキュラーエコノミーやカーボンニュートラルに近づきません。だから価値観の変化とともに、モノではなく価値を提供するという考え方に変わらなければならない。もちろんハードウェアは必要ですが、価値を提供することを主眼に再構築しなければならない。

そうすると、顧客にハードウェアを提供するだけではなく、製品ライフサイクルの面倒を見てサポートしていくところでビジネスチャンスが生まれます。

コストについても、作るコストだけでなく資源を循環させるコストまで考えなければなりません。その上で、提供する価値がいくらなのかという話にならないといけない。

それから、デジタル革命が進んでいますから、ライフサイクルのマネジメントができるようになっています。個人情報を隠匿するという重要なミッションはあるにしても、技術的にはすべての製品のすべての状態がリアルタイムで把握できて、それをビジネスの価値に変えられます。

作った製品は何度も利用した方が得なわけですから、おのずとライフサイクルは閉ループ化していきます。するとリサイクル材料を使うことが製造業の主流になり、足りない分だけバージン材で補うことが前提になってくるでしょう。

製品ライフサイクル設計においては循環が前提に。そしてモノではなく価値提供が前提になると思われます。

ライフサイクル産業


ライフサイクル設計
製品の環境配慮設計では、家電リサイクル法もありましたし、いろんな取り組みを行ってきました。例えば、日本メーカーは真面目なので、分解しやすいようにネジの方向を揃えました。ところが家電リサイクルの現場に行くと、シュレッダーに突っ込まれてガシャガシャと粉々にされて鉄と銅を取り出している。

設計者は後工程のことを考えるとき、十分に情報を得られないまま、よかれと思って設計している。一方でリサイクル現場の人たちは、せっかく実装されている機能を活かしたくても、製品のメーカーや年式が違うので使いこなせない。そんな状況が起きているのです。

これからは製品のライフサイクルそのものを設計してやらないと回りません。

ライフサイクル設計とは?


最近だと、容器を循環させるLoopというビジネスが登場しています。

Loop


これを超えるものはまだないのでは、と思うのがレンズ付きフィルムです。工場で循環させることを前提に設計されていて、クローズドループの仕組みを構築しています。設計と生産プロセスとビジネスモデルが三位一体でつながっています。



製品・サービスシステム(PSS)
モノからコトへと変わっていくとき、製品サービスシステムという考え方が重要です。


「洗濯」という機能のために、洗濯機を売るのがピュアプロダクトビジネスです。クリーニング屋さんはピュアサービスビジネス。コインランドリーはその中間ですよね。

家電量販店の延長保証は、製品に乗っかったサービスの1つです。ヨーロッパだとエレクトロラックスが、洗濯機を使うたびにチャージが発生するビジネスを展開しています(Pay per service unit)。このように、必ずしもモノを売らなくても価値を提供でき、製品そのものをうまく管理できるようになるだろうというのが基本的な発想です。

製品サービスシステム(PSS)


ロールスロイスの航空機エンジン部門では、エアラインに航空機エンジンを売らないで自社所有にし、メンテナンスもロールスロイスが一括して請け負うビジネスモデルを構築しています。ビッグデータで最適なメンテナンスができるのでコストダウンが図れますし、性能さえ保証できればいいので、再生部品をどんどん使えます。

航空機エンジンのトータルケアサービス(Rolls-Royce)


日本だとブリヂストンがトータルパッケージプランを提供しています。運輸会社のタイヤメンテナンスを全部請け負って、空気圧管理もするしタイヤも提供する。ブリヂストンはタイヤが減ったときに寿命を延ばせるリトレッド技術を持っているので、コストを抑えつつ価値を提供できる強みがあります。

大量生産・大量販売ではないビジネスでは、乱暴に言うと「囲い込み」をしていかないと勝っていくことは難しいだろうと思います。

循環プロバイダー
大量生産・大量廃棄ではない価値づくりでは、得意のモノづくりだけではダメで、モノと情報とお金がうまく回る仕組みを作らなければなりません。

そのための役割として、循環プロバイダーが必要だと考えています。

循環プロバイダー


ヨーロッパにはメガリサイクラーがいるので、循環プロバイダーとしてライフサイクルを一手に回す役割を果たせるような気がしています。一方で、日本では単独で担うのが難しそうです。エキスパートを集めてきて一緒にやろうという話になるので、運営のオーケストレーションをする人たちが必要になってくるでしょう。

連携して循環させましょう、という動きはいくつかありますので注目していきたいですね。

誰が循環プロバイダーか?


デジタルの活用
これは日本にとって怖い話です。売り切りでモノを渡せば儲かるという話ではなくなるので、製品ライフサイクルにわたっていかにデータを取るかが重要です。特にユーザーの使用状況を設計に生かしたり再生産で使ったりするためにはデータが欠かせません。データのやり取りができるかどうかが、企業が生きるか死ぬかに関わってくるようになります。

ライフサイクルにわたるエンジニアリング活動の統合的支援が大きなポイント


先ほど申し上げたように、新品とリサイクル品の違いがなくなっていきます。EUのバッテリー規制のように、リサイクル材料を使わなければならなくなると、どれがリサイクル材料で、どれがバージン材なのか。あるいは有害物質が入ってないか、厳密に管理できないといけないわけです。

そうすると、モノと情報を組み合わせると付加価値になる世界がやってきます。モノ売りではないビジネスのカギは情報化で、ここをEUは虎視眈々と規格を作って押さえに掛かってきています。

サプライチェーンがドラスティックに変わる


例えばEUが考えるデジタル製品パスポートでは、バリューチェーンを通じた情報に、ユーザーだけでなくリサイクラーも簡単にアクセスできる仕組みが作られます。そのためのデータを用意する義務を最終製品メーカーに課すと言っています。

経済産業省成長志向型の資源自律経済デザイン研究会(第3回) Mr.Michele Galatola資料、2022


バッテリーに関しては2024年ごろ、このような仕組みが入ってくると言われていて、ドイツを中心とするヨーロッパの自動車関連産業ではシーメンスやSAPが関わってCatena-Xという仕組みを作っています。

つまり、デジタルについていけないとビジネスを続けられない世界が、すぐそこまで来ているのです。

まとめ

サステナビリティとデジタル革命が、今後のものづくりの方向性を決める最重要要因だと私は思っています。特にサーキュラーエコノミーやカーボンニュートラルの話は、市場競争の座標軸を変えていくことがヨーロッパの一つの主眼でしょう。ですから従来の廃棄物処理や3Rと同じだと捉えるのは危険です。

最終的には地球の有限性の話と、豊かさをいかにデカップリングするかという話ですから、もちろん良いことでもあります。

それを実現するためには要素技術の話も大事ですが、結局、仕組みをどういうふうに作っていくかです。私の言葉で申し上げると、それはVision、Meso、SeedsのうちMesoレベルのデザインがとても大切になります。

キーワードは、ライフサイクル産業、ライフサイクル設計、ビジネスモデル(製品サービスシステム)、それから循環プロバイダー。そして手段としてデジタルはすごく重要です。

そのための要素設計技術はいろいろありますが、技術問題というよりシステム化問題です。システム化の技術に関しては、日本は決定的に遅れているというのが私の認識です。

【鼎談】脱炭素社会に向けて

ここからは長島氏も加わり、講演内容を振り返りながらカーボンニュートラルやサーキュラーエコノミーについて鼎談が行われました。


石川:梅田先生のお話を聞いて、まさに我々が取り組まないといけない課題を明確に示していただけたと思います。

弊社のような中小規模の会社では、どのようなアプローチをすればカーボンニュートラルやサーキュラーエコノミーの実現がより可能になるのでしょうか。

梅田:日本の場合、数の多い中小企業が前を走っていくことが非常に重要です。ソミックさんには、モデルケースになっていただきたいと思っています。

大切なのは、サプライチェーン単位で動き出すことでしょう。大企業が引っ張って中小企業がついていく形は、最近の大企業を見ているとアテにならない気がしています。このテーマでは、ネットワーク型で広がっていくことがミソになるだろうと思うので、ソミックさんの方向性は間違いないだろうと思います。

石川:今のお話で勇気をもらえました。新しい世界を作っていくとき、答えは誰も持ち合わせていないと思っています。だからこそ多くの人たちとチャレンジしていき、失敗だと思って立ち止まることなく前へ進み続けることで形になっていくでしょう。

今までのように資本主義的で、上の者が引っ張っていくのとは違った社会づくりをしていかなければ、社会は変わらない。弊社には心強い従業員がたくさんいますので、社外のネットワークの皆さんとともに創りあげていきたいと思います。

長島:石川さんは講演の最後で、仲間になろうと呼びかけていました。これを機に梅田先生にも仲間になっていただきたいですよね。石川さんのお話を聞いていて、一緒にやってみたいことはありますか。

梅田:自動車部品の話と、新規事業の展開についての話がありました。自動車部品の方は、カーボンニュートラルまでは想像がつくのですが、サーキュラーエコノミーを自動車部品メーカーが主導して自動車メーカーにまで波及させる想像がつきません。そこのブレインストーミングは一度やりたいですね。オセロみたいにサプライチェーンをクルッと変えてしまえる方法があるなら、かなり新しいサーキュラーエコノミーのイノベーションになると思います。

長島:自動車業界は残念ながらカーボンニュートラルが喫緊の課題になっていて、サーキュラーエコノミーは後回しにしている感じがあります。

サーキュラーエコノミーとカーボンニュートラルは両立すると考えてよろしいですよね。

梅田:両立するというより、カーボンニュートラルのためにはサーキュラーエコノミーが不可欠になってきています。カーボンニュートラルはエネルギー源を再生可能エネルギーに転化することだと一義的に言われていますが、そうするとエネルギー源が足りなくなるに決まっています。そこで製造工程のエネルギー消費量を減らさなければいけない。そうすると再生材を使った方がいいという話になってきて、サーキュラーエコノミーが必要だというのが最近の議論です。

バッテリーのID管理は必須になってくるでしょうから、もっとIT化されてライフコントロールされた自動車産業になる日は、目の前に迫っていると思います。ただ、それに日本がついていけるのかが気がかりです。

欧州の大企業が牛耳る世界がくるのか

長島:データの話もあり、欧州の企業が強いという感覚があります。この先には欧州の大企業が牛耳る世界が続いているのでしょうか。

梅田:先ほど「椅子取りゲーム」と言いましたが、欧州はフットワークがいい。大企業も日本よりはいいですし、スタートアップも元気です。スタートアップが新たなチャレンジングなビジネスの仕組みをいろいろ試しています。たくさん消えていくのですが、ときどきうまくいくものができて、それを大企業が買収していく土壌があります。試してやってみる場がないと、日本はジリ貧になるような気がしています。うまく仲間を作りつつ、スモールスタートでやってみることが日本でも必要だと思いますね。

長島:サーキュラーエコノミーの世界観は、人の幸福を最終的に追い求めているものですよね。これを本当に命題にしたときには、欧州の大企業が牛耳る世界って「違う」ような気がします。今後どんな道筋が考えられますか。

梅田:ヨーロッパは形式的には、誰でも入ってこれるよっていう形は作るんです。実は牛耳るつもりですけど。フラットに誰でもオポチュニティがある状況に、うまく入り込むやり方が1つあると思います。

ヨーロッパには「企業は悪いやつだ」という見方をする人が多いので、強いNGOがいて抑止力になっています。ですから大企業が支配するのではなく、もう少しバランスを取った構造になるかなとも思います。

もう一つの可能性としては、ヨーロッパの大企業的な広がりと、日本的な仲間づくりの広がりの最前線が、東南アジアあたりでぶつかり合うのではないかと私は思っています。ですから、うまくアジアで仲間づくりができるかどうかが、日本の命運を握ることになるかもしれません。

石川:過去の成功体験として、東南アジアの皆さんと日本の企業がコラボレーションしてきた土台があると思っています。より多くの方を幸せにしていくことを考えたとき、スクラップアンドビルドではなく、この土台を使って新しいものを広げていくほうが使う資源が少なく、効果的かつ効率的です。余力は他のことに使っていった方がいいのだろうと思います。

長島:自動車産業は東南アジアでまだまだ日本が強いです。強いというのはシェアが高いだけではなくて、人づくりを一緒にやってきた。その延長線上でサーキュラーエコノミーやカーボンニュートラルを一緒にやっていこうという話は、十分あり得ると思います。市場も広がりますしね。

梅田:しかし、日本人は日本の強みを言葉にするのが上手ではないですよね。アジアの人たちに、日本と組む魅力を伝えられるでしょうか。その点ではヨーロッパの人が上手なので、そっちになびかなければいいのですが。

石川:日本が今まで成長してきたのは、手段で価値を積み上げてきた結果が大きいと思っています。今回は価値がガラっと変わるので、手段論ではなくて、そもそもなぜ我々は取り組むのか、そこにどんな価値をつくりたいのかをきちんと伝えること。そして、そのための仕組みやシステムの必要性を示していかないと、なかなかジョインしてくれないのかなと思います。

強いドイツに日本が勝つための方向性とは

――参加者からの質問です。EUの動きを企業単位で見ることは、大きな情報漏れを生む懸念があると感じます。標準化の観点では、EU全体を巻き込んだ巨大プログラム「ホライズン」、ドイツであれば国策として動いている「デジタルアジェンダ」や、その中の各種プログラムがあります。ドイツ国内では大学、フランホーファー研究機構、民間企業の連携など、単独企業ではどうにもならないレベルの内容を仕組みとして動かしています。ここは無視できないと考えますが、いかがでしょうか。

梅田:無視できないですね。彼らは特に大学とフランホーファーと民間企業のトライアングル構造を非常に緻密に作り上げているんですよね。日本はなかなかそれができない。官主導の取り組みが民にとってあまり魅力的でないことが多くて、歯車がかみ合ってない気がしています。

長島:日本は構想を描いて「これ、やってみようよ」みたいなことを、民間企業もあまり外に対して発信しない。政府側も「ついてこい」みたいな発信をする方がなかなかいない。

とはいえ欧州でも、自動車業界の環境対応ではいろんなひずみを抱えていて、予定通りいかなかったこともたくさんあります。今起こっているサーキュラーエコノミーやカーボンニュートラルの世界観というのは非連続ですし、相変わらず欧州は強いだろうと思うのですが、予定通りにそのままいくとは限らないでしょう。


――ドイツの産業界が一体となって世界をリードしていこうという動きは、まさに11年前のインダストリー4.0と同じです。カーボンニュートラルやサーキュラーエコノミーは、これまで負けてきた日本にとってのチャンスでもあると思います。チームづくりや競争力の観点ではいかがでしょうか。

梅田:まさにそうだと思います。このチャンスをつかめるかどうか。日本はネットワークで良好なチームを作ることは得意だし、きめ細かい対応で自然に役割分担できるカルチャーがあるので、それをうまく活かして競争力を生み出せるはずです。特にサーキュラーエコノミーにおいては、この強みを使う場がたくさんあると思います。

長島:2050年のカーボンニュートラルを実現するためには、大変な数のSeedsが必要です。しかも、最初にできたSeedsが使えるわけではなくて、とてつもなく磨きあげて、ようやく2050年に間に合うかどうか。磨きあげるのが一番得意なのは日本なんですよ。

梅田:確かに、それは間違いないですよね。

石川:製造業が事業を進めてきて、いろんな技術や技能を手に入れました。今一度、持っているものを分解してみると、実は違うものにも使える可能性がありそうです。我々にとっては残念ながら当たり前になってしまっているからこそ、そのすごさの価値を再定義していくと、そこに新しいチャンスが出てくるのかなと思いました。

先ほど長島さんから梅田先生とのブレストを勧めてもらいましたが、それによって我々の持っている価値の再定義ができそうです。新しいネットワークを作るとき、そんなことからスタートしていくといいのかもしれませんね。日本の得意な部分なので、ぜひ形にしてみたい。私も製造業の世界に生きる一人として、熱くそう思います。

――ソミックさんの取り組みを見ていると、そこまで旗を振らなくても、自分たちの利益を追い求めるやり方だってあるはずです。

石川:今、社会では課題や苦しさをみんなが抱えていると思うんですよ。みんな、このままでいいとは思ってないはずです。ただ、なかなかそういうことをオープンにしにくい社会になっている。我々がなぜ積極的に活動しているかというと、まず誰かが声を出して、いわゆる心理的安全を作り上げていかなければ、みんなが一歩前へ出て行けないんじゃないかと思うからです。

私どもは、世の中が良くなるためにやっていく。その結果、いろんなものがつながっていくはず。だから特別に稼ぎたいということではなくて、本当にパーパス、アイデンティティ、理念で掲げているような世の中が作られていけばいい。ソミックはおかげさまで107年になりますが、今までもそうしたご縁でやってきました。

長島:すごく理想的な話ですが、経済性も成り立つのではないでしょうか。例えば100社あれば、それぞれがみんなの価値になるものを作って、他の99社が買う。100社の中で経済循環ができますよね。そこに答えがあるような気がしています。さらに200社、300社にしていく。結果的に、サーキュラーエコノミーやカーボンニュートラルの実現も早まるのではないでしょうか。ソミックさんのやっていることは、そういう活動ではないかと捉えています。

――最後に梅田先生から総括をお願いします。

梅田:TCFD(気候関連財務情報開示)では、カーボンに対する活動を非財務情報として公開しなければならなくなるようですが、投資家の人たちに聞くと、それが企業のリスク管理の体制を表しているわけです。

企業価値も長期的なものが重視されるようになっていて、いい傾向だと思います。短期的に儲けるのではなく、世の中のため人のための活動が、長期的には企業価値として跳ね返ってくる。それは日本企業がもともと持っていたスタンスであり、強みです。そこにデジタルの技量を持つようになれば「鬼に金棒」なんだと思います。

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