3次元図形処理技術解説 第14回 幾何形状モデルのデータ変換の落とし穴

技術ディビジョン・プロフェッショナルコンサルタント 宮木 邦宏

 

前回はCADのデータ精度に関連した、CADデータ変換の問題点について説明しました。
今回は、意外と見落とされがちな、幾何形状モデルにおけるデータ変換の問題について解説します。

 

「幾何形状は簡単な形なのだから、データ変換の問題など起きようがないのでは?」と思われる方も多いと思います。しかし、データ変換時の不具合に占める幾何形状の割合は意外に高く、デリケートな処理が必要な場合が多く存在します。
なぜ幾何形状が問題になるかというと、CADごとにその表現方法が異なるからです。

 

■幾何形状の表現例
代表的なCADやソリッドカーネルにおける、幾何形状表現についてまとめたのが下表です。代表的な幾何形状である、円筒面、球面を取り上げてみました。


この表が示すように、CADの内部表現のしかたは、大別して4つのタイプがあります。
円筒面の表現方法を見てみましょう。

 

タイプⅠの円筒面は、上面(または下面)にある円を、それがある面に垂直な軸に沿ってスゥィープすることにより得ます。この面は押し出し成形で作成したパイプのように、継目なしの1面となります。
タイプⅡの円筒面は、ちょうど平板を丸め、巻き締めたような形で表現しています。逆に言えば、開いた面は長方形となります。側面には1本の継目ができます。
タイプⅢの円筒面は180°ごとに2分割された円と、上下の対応する円端点を結んだ直線を用いて作成します。側面には2本の継目ができます。
タイプⅣの円筒面は90°ごとに4分割された円と、上下の対応する円端点を結んだ直線を用いて作成します。側面には4本の継目ができます。
これらの面表現の違いは、NURBSのような自由曲面表現で、形状のハンドリングが容易でありながらも正確に表現するか、あるいは形状ハンドリングの容易 さを捨ててでも、どれだけ厳密に形状を表現するかといった、それぞれのCADにおけるポリシーの違いから発生しています。
1面表現しているものは、幾何形状表現に最も適した表現方法を適用しているのが一般的で、自由曲面を用いた表現ではありません。一方分割表現にしているものは、すべての面を自由曲面で表現しようとている、と言えます。
NURBSは、この講座でも説明したように、理論的には制御点を多重化させることで、円を表現できます。しかし、ここでは詳説しませんが、NURBS特有 の重みづけを行う際(NURBSは重みづけに時間の関数を使いますので、計算過程では4次元空間形状が表現されます)に、接線の「折れ」が生じるといった 問題が生じます。このままでは円筒面や球面のように、円を内挿するNURBS曲面を生成するときの計算に困難が伴うため、これを回避するために分割を行っ ているようです。

 

以上のことから、幾何形状においては、見た目には同じでも内部表現はかなり異なっている場合がある、ということがわかると思います。

 

■厄介なトリム形状処理
変換対象の形状が単なる円柱/円筒、ないし球ならば、内部表現のしかたを変えるだけで済みます。しかし、ソリッドモデルが主流になっている今日、そんな単純な形状ばかりが存在しているわけではありません。
元は単純な幾何曲面であったものが、その周辺にブロックなどが結合され、穴が開けられ、フィレットがかかり…というように、どんどん境界線が変わっていきます。
これをデータ変換すると、一体どうなっていくのでしょう?

 

1面表現だった円筒や球形状が、他のCADデータに変換される際、2面や4面に分割されるかもしれません。
穴や隣接面境界がある場合、それを用いてトリム面を生成しますが、このときに分割された継ぎ目を通ることが考えられます。
このとき、境界線と継ぎ目の交点は殆どの場合表現されていないわけですから、交点を計算した上で境界を作り直す作業が行われるはずです。少なからず、誤差を生む可能性が否めません。
もし、変換された円筒や球の曲面の継目ににぴったり接するような境界が定義されていたら、うまく処理が行えるのでしょうか?数学的にはもっとも難しい処理のひとつになるはずです。


さらにこのデータを元のCADに戻した場合に、等価に元の面が再生できるかも疑問です。下手に幾何形状として変換してエラーを起すくらいなら、NURBS曲面として取り込んだ方が得策かもしれません。

 

このように見ると、むしろ幾何形状の方が、変換に手間がかかり、問題も発生しやすいことがおぼろげながらおわかりいただけると思います。実際、我々のようにCAD業界にいた技術者の間では、幾何形状の方が変換時の問題が起こりやすい、といった認識がされています。

 

■幾何表現の違いによる、変換不具合を少なくするために、できることは?
幾何形状をエラーなくデータ変換するために、CADモデル作成者は何らか工夫できるかというと、この問題は内部表現に起因して生じているため、殆ど何の手 立てもないのが実情です。どのCADメーカーも、上記に説明したような問題はよく認識しており、変換プログラムの中で対応策をとっていますので、だいぶ問題は少なくなっています。しかし、残念ながら完全ではないのも事実です。
頻繁にデータをやりとりする部署または会社間では、同じCADで統一するか、ないしはこういった変換不具合の解決を積極的に行っている、ダイレクトトランスレータの使用を考えるべきでしょう。

 

次回は変換エラーを起こす形状の特性について解説します。

 

(第14回おわり)

 

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