日経ものづくり/体質改善3D設計 第8回 標準化とモジュール化1 ~機能設計と形状設計に分けて適用~

2010/11/01

 

技術ディビジョン・コンサルタント 大泉 圭一
 
今回からは、「製品からの視点を中心とした製品開発力向上」に関する取り組みに焦点を当てる。この取り組みは3次元設計を展開していない場合にも適 用でき、場合によっては3次元設計プロセスを再構築する前に実施することも可能である。しかし、パラメトリック機能の活用や3次元モデルによる検証性の向 上など、3次元設計との相乗効果は期待できるので、ぜひ、取り組んでもらいたいテーマである。
 

 
今回と次回の2回は、活動テーマの「標準化・モジュール化」について紹介する。第5回(2010年8月号)では3次元設計の活用拡大として「形状要素(部 品形状)」のモジュール化について説明したが、今回は「設計」の標準化・モジュール化である。形状のモジュール化がモデリング作業や後工程での効率化が目 的であるのに対して、設計の標準化・モジュール化は設計の視点から合理的な標準を見いだすことを目的としている。もちろん、受注から具体的なモデリング作 業に入るまでのプロセスを効率化する狙いもある。
筆者らの手法では、「標準化」と「モジュール化」を明確に分けている。その上で、設計プロセスを大きく「機能設計」と「形状設計」に分けて考え、それぞれ に対して標準化とモジュール化を適用するのが特徴だ。以下、それぞれの用語の定義も含め、設計の標準化・モジュール化を進める手法の概略を紹介する。
 
■仕様に対する諸元を集約
 
まず、標準化について説明しよう。標準化とは、不必要な差異(亜種)の発生をできる限りなくすことだ。標準を決めても、いつの間にか変動要因が入ってきて 標準は崩れていく。主な変動要因は顧客と設計者にあるが、顧客が他の顧客と異なる要求をするのは当然だ。だが、設計者に起因する変動は全く違う。これは設 計上の亜種ととらえ、標準化のためには厳格に対処する必要がある。
下図を見てもらいたい。このグラフは横軸が仕様、縦軸が諸元である。ここでは、「顧客が指定し、設計者がコントロールできない、もしくはコントロールが困 難なもの」を仕様と、「顧客はあずかり知らず、設計者がその裁量で決められるもの」を諸元と呼んでいる。例えば、工作機械の主軸の最大回転数は顧客の要望 で指定できる仕様だが、それに用いるモータの型式や最大回転数は設計者が決める諸元である。
仕様と諸元の間には、本来、設計ロジックに基づいた関係式が存在するはずだ。図1の例では、ある仕様Aに対して諸元Xが線形に変化している。ところが、点 群で示したように過去の設計実績を見てみると、この線上から外れているものが少なくない。これらが、設計上の亜種である。
 

 
この設計上の亜種を生む土壌を設計上の「あそび」と呼ぶ。新図が絶えない要因だ。設計上のあそびとは、インプット(仕様)に対してアウトプット(諸元)が 一意的に決まらず、設計者の裁量によって取り得る値の範囲を指す。誰が設計してもインプットに対して同じアウトプットになるのであれば、設計上のあそびは ないはずだ。
しかし、現実の設計ロジックは諸元が取り得る値の範囲を示すだけで、その中から選択するのは設計者に任されている。さらに、その選択基準はあいまいな暗黙知であることが多い。
そこで、まずあそびをなくすことに取り組むわけだが、実は、あそびをなくすだけでは標準化は達成されない。
上図を見てもらえば分かるが、仕様Aと諸元Xが連続的なため、顧客による変動に応じて諸元の取り得る値が無限に存在してしまう。
そこで、下図のようにアウトプットされる諸元Xを断続的な値を取るようにする。この図では5つの値に集約している。
これが諸元の標準化である。設計上のあそびが存在することを逆手に取り、標準化の余地として活用するのだ。
 

 
諸元の標準化には2つの方法がある。1つは市場ニーズと自社の都合を加味して仕様レンジを設定し、諸元を集約する方法。もう1つは、諸元の値が異なっても 性能を満たせる範囲から諸元のレンジを決める方法だ。部分的に過剰設計になって冗長性が発生するため、そのメリットとのトレードオフを評価する必要があ る。
 
■擦り合わせを軽減する
 
一方のモジュール化とは、製品開発における擦り合わせを軽減させるために、業務上のルールを決めることに似ている。例えば、部門をまたいで業務を行う場 合、やりとりの手順や情報に規定がなければ、先に行くべき部署を後回しにしてしまい情報が不足するなど、手続きが順調に進まないことがある。さらに、1つ の作業を完了させるために多くの部署を回る必要があれば、手間は倍増する。結果、個々の作業に手間がかかり、やがては会社全体の業務を混乱させる。 モジュール化は、これを製品に当てはめる。どの業務(機能)をどの部署(モジュール)に入れたら設計や製造が効率的になるか、部署(モジュール)間のやり とりの規定(インタフェース・ルール)をどうしたらよいかを決めておく。適切にモジュール化できると、仕様に見合ったモジュールを検索し、組み合わせる作 業を最小化できる。
 
■機能設計と形状設計の2段階で
 
標準化とモジュール化は、機能設計と形状設計の2段階に分けて行う。機能設計は企業によって基本設計や計画設計、概要設計などと呼ばれる設計業務を指し、 設計上の主要な諸元を決定する。レイアウト設計のように図面を描く作業もあるが、多くは技術計算などの検討である。 一方の形状設計は詳細設計などと呼ばれ、機能設計で決定された内容に基づいて、3次元CADなどを使って具体的な形状として完成させる。つまり、標準化・ モジュール化を、物理的な形状を持たない段階と持つ段階の2回に分けて行うのである。
機能設計と形状設計に分ける理由は、形状を持った段階での標準化・モジュール化の難易度が高いからだ。干渉などのありがたくない相関関係が部品間に存在す るため、必要な機能を持ち、十分な性能を出せるモジュールであっても組み付けられなかったり、他の部品と干渉したりすると使えない。そこで、初めにこのよ うな問題が発生する形状設計(物理的な形状を決める工程)を除外して考える。
機能設計を対象とする段階では、物理的な形状に起因する問題に悩む必要はない。機能や性能という、製品の仕様や諸元で表現できる形のない要素を対象としているからだ。結果、形状にとらわれず、製品に合った合理的な標準化とモジュール化の設計図が出来上がる。
一方、形状設計を対象とする段階ではモジュールを組み合わせて派生機種を実現させる検討を行い、バリエーションを考慮した「標準化・モジュール化設計図」を完成させる。具体的な形状設計は、この設計図に基づいて実施する。
このように対比させて考えると、機能設計は論理的な検討で、形状設計ではそれに加えてさまざまな与件、つまり環境や顧客特有の要望など、設計者から見れば 偶発的で非論理的な状況を織り込んだ検討であることが分かる。筆者らが機能設計という設計の源流にさかのぼって標準化・モジュール化に取り組む理由は、機 能設計が論理的にとらえられる対象だからだ。 標準化・モジュール化で最も苦労するのは標準を定着させることだが、それを難しくしている背景には、設計者に無理を強いている現実もある。設計では、機能 や性能を実現するために論理的で複雑な検討を行っている。
定義した標準がその結論と一致すれば問題ないが、一致せずに論理的な思考を妨げるなら、その標準はまず定着しない。設計者が仕様を見て真っ先に連想する過 去の設計を踏襲しようとするのは自然だし、標準がそれと乖離していれば、出図までによほど余裕がない限り、設計を標準に合わせる面倒な作業と向き合おうと はしない。
つまり、標準が設計者の思考にのっとっており、技術的にも納得して信頼し得るものでない限り、その標準は受け入れられず、決して定着しない。従って、形状 設計の結果である図面を見比べながらチ標準を選択するチのではなく、機能設計における設計者の思考という源流にさかのぼってチ標準を設計するチのが正しいアプローチだ。
 
(続きは、下記よりPDFをダウンロードしてご覧ください)
 
出典:PDFを含む掲載記事は、日経BP社『日経ものづくり』 2010年11月号 p79~84「体質改善3次元設計」より、日経BP社の了承の下、掲載しております。

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