日経ものづくり/体質改善3D設計 第6回 生産工程での効果刈り取り ~3次元図面をデータベースに直結~

技術ディビジョン・コンサルタント 團野 晃

 

設計における3次元設計基盤づくりがほぼ出来上がると、社内の3次元設計比率が増えてくる。それに続く取り組みとして前回(2010年8月号)解説 したのは、「形状モジュール化」で金型要件や生産要件を設計段階から3次元モデルに盛り込むことによって、3次元設計の効率と品質をさらに高めることだった。こうして3次元モデル作成という「種まき」が十分にできるようになったら、次はその効果の刈り取りである。

 

 

■モデルだけでは分からない

 

今回は、3次元モデルを生産工程の広い範囲で活用していく上で、効果の刈り取りといった点から配慮すべきポイントを解説する。
設計部門が生産工程に伝えるべき設計意図とは、要求品質を満たす製品を造るための指示事項である。設計意図の伝達の目的と必要性は、それ以外にはない。
その点、3次元モデルは、製品が完成したときの形状を如実に表したものであるので、2次元図面よりもはるかに分かりやすく、伝わりやすい。しかし、根底に ある設計意図は、単に形状を表しただけの3次元モデルからは分からない。試作、製造、検査などの工程を分業でこなすためには、何らかのルールを構築して、 設計意図を含んだ「3次元図面」として流通させる必要が出てくる。3次元設計の効果を生産工程で刈り取るには、図面レスを実現する3次元図面流通の基盤を 構築したい。

 

■意図の伝達は良品生産の原点

 

昨今のグローバル化の加速に伴い、同一のモデルや図面を基に世界各地の拠点で金型の調達から部品生産までを行うことが多くなったが、言葉も文化も違う人た ちに設計意図を正しく伝えるのは大変なことである。日本国内のように、各部門・個人が高い技術力を持ち、分業された工程間で擦り合わせを行いやすい文化の場合は、設計意図が多少曖昧でも、それを経験的にうまくくみ取ったり補ったりして業務を遂行してくれる。しかし、海外拠点では、ずいぶん勝手が違う。各工程で作業する技術者の根底にある知識レベルや行動パターンが日本と同様であると思い込んでいると、思わぬ落とし穴にはまってしまう。
以前、筆者が関与したことがあるプロジェクトでも、上記の要因で海外拠点がつぶれそうになったことがある。当時、その企業の国内拠点では、2次元図面を公差寸法のみの記述に簡略化し、それ以外の一般公差寸法は3次元モデルで伝達することとして、生産・検査工程でビューワを活用し始めていた。一方、海外拠点 では、まだその設計意図伝達ルールが浸透していなかった。

 

 

このような状況の中、ある製品を生産することになった海外拠点で、検査部門が2次元図面しか見ていなかったのだ。その結果、公差指定がある寸法しか測定・ 保証されず、一般公差である外形寸法は未検査のまま変動し続けていた。誰もそれに気付かぬまま最終組立工程まで進み、そこで初めて部品同士が干渉すること が発覚し、生産ラインが停止した。
かなりの量の在庫が使用できない事態となり、製品の立ち上げに間に合わせるため問題の部品をすべて日本で急きょ生産して、航空便で送ることで対応した。そ の仕損費は、現地法人が債務超過に陥りかねないほど多額に上った。後日、日本から技術者を現地へ送り、設計意図伝達ルールおよびビューワの活用方法の教育 と活用の徹底、拠点の要望を取り入れた改善を行ったが、なぜ最初からそうしなかったのか、悔いが残る結果であった。
設計意図が伝わらないことにより、このような思わぬ事態が発生することもあるのだ。

 

■業界の取り組みを参考に

 

3次元図面だけで設計意図をうまく伝達できている事例は、まだ多くは見られない。これは、3次元図面上での設計意図情報の記述方法が確立していないこと、 3次元CADに十分な表記機能が備わっていないことに起因している。とはいえ、図面作成に多くの工数を費やしている現状の改善は、設計部門にとっての大きな課題である。
これを解決するため、日本自動車工業会(JAMA)および電子情報技術産業協会(JEITA)は、おのおの3次元図面作成ガイドラインを制定している。各 社が共通の表現方法を採用することで、異企業間でも3次元図面で設計意図伝達をスムーズに行えるようになることを目指している。これができるようになれば、わざわざ2次元図面を作成する手間がなくなるため、設計の効率を向上できると思われる。将来の標準制定に備え、JAMAとJEITAのガイドラインを 参考にすることは必須事項と考えていいだろう。
一方、この取り組みはその緒に就いたばかりで、図面におけるJIS規格のように、細部にわたる規定が決まっているわけではない。不足している部分では、企業ごとの工夫で伝達の方法を決める必要がある。そのポイントには以下のようなものがある。

 

1.設計変更の指示方法
〔業界ガイドライン〕
設計変更の部位を色分けもしくはレイヤ分けする。
〔追加取り決めのポイント〕
具体的な色やレイヤを定義・統一する。異なったCADでデータを使おうとしたときにデータ変換で色が変わるケースがあるので、それも検証の上で取り決めたい。

 

2.組立前後で形状が違う部品の指示
〔業界ガイドライン〕
組立前後の形状を補足として付与する。
〔追加取り決めのポイント〕
補足として付与するデータの図番定義方法と、その管理の仕方を定義する。社内品番、図番、3次元図面の図番をひも付け管理する必要性と具現化方法を明確にした上で取り決めなければならない。

 

以上は、ほんの一部の事例であり、さまざまな細かいことを取り決めるのは地道な作業である。しかし、しっかりと取り組まなければ従来の2次元図面はなくならず、設計部署の負荷は低減できない。ここは、覚悟を決めて取り組む必要がある。

 

(続きは、下記よりPDFをダウンロードしてご覧ください)

 

出典:PDFを含む掲載記事は、日経BP社『日経ものづくり』 2010年9月号 p82~87「体質改善3次元設計」より、日経BP社の了承の下、掲載しております。

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