日経ものづくり/体質改善3D設計 第3回 設計基盤の構築 ~CADデータを真の“共通言語”に~

技術ディビジョン・シニアコンサルタント 宮木邦宏

 

3次元設計開発プロセスの構築において、自分たちはどのような弱点や問題点を抱えているのか、その克服に向けどのような活動を推進していくべきなの か─。前々回、前回(2010年4、5月号)は、それを判定するための「プチアセスメント」と、その判定結果から今後の活動の方向性をつかむ「7つの活動 類型」について紹介した。今回からは、その活動の中身がテーマになる。 我々の経験からいうと、プチアセスメントの結果、「堅実型」以外の6つの活動類型に該当しているケースでは、3次元設計開発プロセスの展開において何らか の問題を抱えている。中には、3次元設計のための基盤がしっかりと構築できていないケースが多々含まれている。3次元設計開発プロセスの展開を成功に導く 上で、そうした基盤の構築は非常に重要なものである。そればかりか、活動の早期に取り組むべきものといえる。そこで、今回は「3次元設計の強固な基盤づくり」をテーマに解説する。

 

■ベテランの知見を与える基盤

 

「3次元設計の強固な基盤」とは、端的にいえば「経験の乏しい設計者にもベテラン設計者の知見を与え、より高いレベルの開発を実施できるようにするための、土台やインタフェースとなるもの」である。
通常、製品開発の裏には技術やノウハウの蓄積があり、それらを有効に活用することで競争力の高い製品の開発が可能になる。既存の技術やノウハウをうまく引き出し、日常の開発業務でストレスなく利用していくことができれば、設計者に気付きを与えたり、正しい判断に導いたりすることができる。我々は、そのため の土台やインタフェースとなるのが「3次元設計の基盤」であると考えている。

 

 

例えば、設計業務の効率化に向けた技術やノウハウの蓄積・強化のためには、「設計手法・設計手順の定義」「設計意図伝達ルールの整備」「(3次元データの 品質とCAD活用レベルの向上を目的とした)スキルアップ教育の実施」などが求められる。製品品質の早期作り込みに対しては、「(ベテランの知見を反映さ せた)省力化プログラムの活用」「CADデータの流通拡大」「金型設計の3次元化」など、CADデータの活用範囲の拡大や業務の品質向上と効率化の両立に つながる活動が必要となる。そして、これらの活動を積み上げていくための土台となるのが、後工程で使える3次元モデルを作れる体制といえる。
要するに、3次元設計開発プロセスにおいては、3次元モデルが設計意図や技術/ノウハウを盛り込む主たる器。そうした器をしっかりと作れる体制を築けるかどうかは、その後の活動の成否を大きく左右する。
こうした3次元設計基盤を、より強固なものへと整備していくことで、蓄積した技術やノウハウを、より的確に技術者に浸透させられるようになり、製品の品質を高いレベルで均質化できるようになる。さらには、開発力向上のための活動もより円滑に行えるようになる。
設計基盤の良しあしは、利用しているITシステム(例えば3次元CAD)ではなく、どのようなもくろみをもって基盤を構築するかで決まる。他社で効果が出 ているからといって、それと同じ3次元CADを導入しても同様の効果が得られるとは限らない。最悪の場合は、マイナスの効果を被るケースだってあり得る。
ここで何よりも大事なのは、まず自分たちのもくろみに見合った設計開発プロセスを地道に探していく努力である。さらには、そのプロセスの実現を後押しできる3次元CADなどのITシステムを選ぶことである。

 

■モデル構築の履歴は並列状に

 

3次元設計の強固な基盤づくりを目指す上で強く推奨しているのは、3次元モデルの作り方を統一することである。これは大別して、
・3次元CAD運用ルール(ファイル命名方法、レイヤの使い方、図形要素データの格納ルールなど)
・モデル構築手法
の2つに分けられる。これら2つをしっかりと統一し、さらに、この上に設計対象に合致した設計手法を構築していくことで、より高い効果を出せる環境が出来上がる。
3次元CAD導入の初期段階においては、上記のいずれもが決まっておらず、個人任せになっていることが多い。大規模に運用されるようになるにつれCAD運用ルールはほぼ整備されるが、モデルの構築手法をきちんと定義し、統一するという活動については手付かずのままの企業が少なくない。
3次元設計は、作成したモデルを最終工程まで使い、一連の工程全体で効果を出すものである。そのため、いずれの工程においても作業がしやすいようにモデルが作成されていることが望ましい。
モデルの構築履歴を保持する、いわゆるヒストリーベースの3次元CADでは、前述のような観点から、構築履歴が1本の長い「直鎖型」ではなく、「ブッシュ型」と呼ばれる並列状の構築履歴になるようにモデルを作るべきである。直鎖型では、モデル修正の影響が連鎖的に全体に及ぶことが多く、モデル再構築時のエ ラーの原因になったり、モデル更新にいたずらに時間がかかったりする。ブッシュ型では修正の影響を限定化することで、そうした難点を軽減できる。

 

 

■流用を妨げる作り方のバラつき

 

もっとも、上記のような配慮はヒストリーベースの3次元CADを使う上での最低限の注意事項にすぎず、それだけでは本当に後工程で編集しやすいモデルにはならない。
通常、他人が作成したモデルは修正が大変である。モデル全体としては共通の作り方になっていても、細部が異なっていると編集を行うことはできず、あえて編集しようとするならモデルの構築履歴を解析して理解しなければならない。同じ日本語でも、各地方の方言がそれを知らぬ人にとって難解であるのと同じであ る。
このような作り方のバラつきは、後工程の作業効率にかなりのマイナス影響を与えてしまう。逆にいえば、後工程の作業の効率化のためには、モデルの構築手法を定義し、統一することが非常に有効な手段になるのである。
我々の経験からすると、モデルの構築手法の定義と統一については、設計者のほとんどにとって、取り組み前の段階ではうれしいこととは思えないようだ。設計 の自由な発想を阻害する可能性があるし、後工程のために設計の負荷を増やしたくない、というのが主たる理由である。しかし実はモデルの構築手法の定義は、 後工程のためだけではなく、設計者自身のためにも重要な取り組みなのだ。
ほぼすべての製品開発においては既存部品やユニットの流用が行われるし、過去製品の設計情報は次の製品を生み出すための貴重な財産である。最近は、一品生 産品でもモジュラ化を指向する機運が高まっており、部品やユニットを流用する重要性は増しているのだ。 部品やユニットを流用するのは、それを設計した本人だけとは限らない。もし既存の3次元モデルを理解し、修正するのに想定以上の多くの工数がかかるようだ と、流用をあきらめ、新しくモデルを作成し直してしまうことにもなる。こうなれば、せっかくの過去の資産が生かされず、効率化はおぼつかなくなるし、製品 開発コストも上昇してしまう。
一方、モデルの構築手法を定義してできる限り統一しておけば、誰がそのモデルを作ったのかによらずに流用しやすくなり、作業効率の向上もコストダウンも図りやすくなる。これにより、他の拠点で開発した部品やユニットの流用も促進できるようになる。
モデルの構築履歴を持たない、いわゆるノンヒストリー・ベースの3次元CADを利用すれば、そんな苦労はしないで済む、という声もあるだろう。しかし、構 築履歴を保持するか否かにかかわらず、作り方によってモデルの作成効率には大きな差が生じるため、モデル構築手法の定義が必要ないということはあり得な い。どのようなタイプの3次元CADを利用していても、この取り組みは重要だといえる。

 

(続きは、下記よりPDFをダウンロードしてご覧ください)

 

出典:PDFを含む掲載記事は、日経BP社『日経ものづくり』 2010年6月号 p74~78「体質改善3次元設計」より、日経BP社の了承の下、掲載しております。

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